1日8時間は普通じゃない?哺乳動物の多様な睡眠

2020年1月29日 ALL生物
サンベアー

ヒトの睡眠は、夜に連続して8時間ほどです。一日に何回寝るのか、何時間寝るのかは、哺乳動物の種によって大きく異なります。実は、哺乳動物の中で、一日に一回しか寝ない種は少なく、ヒトのように雑食でありながら8時間しか寝ない種も珍しいです。今回は、哺乳動物の眠りの長さと回数には、どんな傾向が見られるのか解説したいと思います。

食性によって睡眠の長さは異なる

トラ

睡眠の長さは、哺乳動物の場合、動物の分類群ではなく、食性とサイズに依存しているようです。

まず、食性については、草食、雑食、肉食動物の順に、平均睡眠時間は7-8時間、約12時間、約13時間です。草食動物の睡眠時間が短い理由は、植物は肉に比べて栄養が少ないため、草食動物は、肉食動物よりも多く食べ物を食べる必要があり、食べることに費やす時間が長いためだと推察されています。ヒトの生活では、起きている時間のうち直接食べることに使う時間よりも、仕事や遊びといった他のことを行っている時間の方が長いことが多いため、この推察は、あまりピンと来ないかもしれません。しかし、多くの動物にとって、起きている時間に占める、食事に費やす時間は、ヒトよりも随分長いです。人間のように目の前に出てきたものを平らげれば、お腹を満たせるということは野生では殆どないため、多くの動物は、起きている時間の多くを食べ物を探索したり、捕まえたりするために使います。そのため、十分な量を食べるのに必要な時間と起きている時間に、強い相関があると考えられます。ヒトの8時間ほどの睡眠時間は、他の雑食動物の睡眠時間(平均約12時間)と比べて短いです。

体サイズが大きくなるほど睡眠時間は減る

シロサイ

動物のサイズと睡眠の長さの関係は、草食動物では、調査された約20種の動物のうち、一日あたりの睡眠時間がもっとも長い種は15時間弱の睡眠をとりますが、最短のものは、3時間ほどしかとりません。また、この睡眠時間は、サイズ(体重)が大きくなればなるほど短くなるという傾向があります。雑食、肉食動物については、多くの動物が10時間から15時間くらいの睡眠時間であり、体重と睡眠時間に強い関係は見られません。

草食動物でこの関係がみられる理由については、Siegel (2005) は以下のように考察してします。

体重が小さい=サイズが小さい動物ほど、体重に対する体表面積が大きくなるため、体で作られた熱は放散されやすくなります。そのため、一般的に小型哺乳動物は、体温を保つために、代謝量を大きくする必要があると言われています。代謝量が大きい動物は、酸化ストレスを受けやすくなると考えられ、脳の酸化ストレスによるダメージを修復するために、睡眠を多く取る必要がああるのではないかと考えられます。
一方、雑食、肉食動物については、カロリーの高い食事を取ることができるため、採食に費やす時間が少なくて済み、また、捕食者に襲われる心配なく眠れるため、代謝によって受けた脳のダメージを修復するのに必要な睡眠時間以上に睡眠を取っていると考えられ、代謝量(体サイズ)と睡眠時間に明瞭な相関がみられなくなっていると考察されます(Siegel, 2005)。

一日あたりの睡眠の回数について

レッサーパンダ

小さな動物ほど、エネルギーが蓄積されないため、食べ続けないといけないという話を聞いたことがある方は、小さい動物ほど長く寝るという上記の話と矛盾するのではないかと思われるかもしれません。小型哺乳動物の睡眠時間は長いといっても、一度にそれだけの睡眠をとるわけではありません。ネズミで行われた研究では、最長でも30分、短いと数分の睡眠を一日に50~60回もとっているようです。短い睡眠を何回もとることによって、長い睡眠をとりつつ、頻繁に食べることを可能にしているようです。

一日に何回も睡眠を取る(多相睡眠)のか、一回だけ(単相睡眠)なのかについては、近縁な動物間でも分かれているので、分類上の傾向はあまりみられません。ですが、ウマやウシ、ゾウといった草食動物、ヒトを含めた霊長類の一部に単相睡眠のものが多いことから、昼行性で、大型、睡眠時間の短い動物には、単相睡眠を取るものが多いという傾向があるかもしれません。一方、肉食動物はすべて多相睡眠であり、哺乳動物全体では、多相睡眠をとる種の方が多いようです。

 

【参考】動物の総睡眠時間と一日あたりの睡眠回数

【参考文献】

大島靖美『動物はいつから眠るようになったのか? 』技術評論社, 2018年

Siegel JM. Clues to the functions of mammalian sleep. Nature. 2005;437:1264-1271.