奈良の若草山でシカに食べられずに残る植物

2020年9月30日 ALL生物

近年日本の各地でシカの個体数が増加し、森林の植物が過剰に食べられるようになりました。ここ数十年の間に、今まで多様性の高かった林床の植物が、シカによる採食を受けにくい植物ばかりになってきた地域も少なくありません。
今回は、長年シカによって強い採食圧を受けてきた、奈良の若草山(山焼きで有名な山です)で特に目立って見られるシカ不嗜好性植物5種についてお話したいと思います。

ナンキンハゼ

ナンキンハゼ

林床に優占するナンキンハゼ

トウダイグサ科ナンキンハゼ属の植物です。原産は、中国、台湾です。

街路樹や庭木として使われ、野生化しています。奈良公園には1961年の第2室戸台風をきっかけに大量に侵入したと言われています。成長が早く、よく広がります。明るく開けた環境を好み、奈良公園では大きく育った木も幼木もたくさん見られ、林床がナンキンハゼの稚樹で覆い尽くされている場所も多数あります。また、春日原生林にも侵入しつつあります。ナンキンハゼは葉が薄く棘もありませんが、果実や根皮が下剤や利尿剤に使われることから、シカにも何かしらの作用があるのかもしれません。

ナギ

ナギ

ナギ

マキ科ナギ属の常緑植物です。

一見広葉樹ですが、実は針葉樹です。台湾や日本の本州南部、四国、九州など温暖な地域に自生します。奈良には自生しませんが、1000年以上前に春日大社に献木され、植栽されました。ナギには、哺乳類に作用する毒が含まれています。奈良公園全体で見られ、春日原生林にも侵入しています。薄暗い林床でも生育しています。

マツカゼソウ

マツカゼソウ

マツカゼソウ

ミカン科マツカゼソウ属の多年草です。

ミカン科では唯一の草本です。東アジアに分布し、日本には、宮城県以南の本州、四国、九州に分布します。明確な毒性はあまり知られていませんが、独特の臭いがします。奈良公園全体ではあまりみられませんが、若草山の開けたところでは群生していました。

コガンピ

コガンピ

コガンピ

ジンチョウゲ科ガンピ属の落葉小低木です。

台湾にもあるとされてきましたが記録がないため、日本固有種である可能性が高いと考えられています。本州東海地方以西、四国、九州に分布します。尾根筋や崖を好み、奈良公園全体ではあまり見かけませんが、若草山の開けた場所で群生しているのが見られます。毒性については知られておらず、なぜシカが食べないのかは不明ですが、奈良公園以外の地域でもシカが食べていないことが観察されています。

アセビ

アセビ

アセビ

ツツジ科アセビ属の常緑低木です。

日本の本州、四国、九州に自生します。全草有毒な植物で、葉が殺虫剤に利用されることがあります。ヒトが摂取すると、血圧低下、腹痛、嘔吐、下痢、神経麻痺などの症状が現れます。アセビは馬酔木と書き、馬が食べると酔ったようにふらつくことからあこの名がつけられました。奈良公園全体の林床でよく見られます。

若草山と奈良公園の植生の違い

若草山と奈良公園、いずれのサイトでもシカ不嗜好性の植物が目立ち、シカの採食圧が高いことがよく見て取れます。一方で、よく見られる植物種はこの隣接する2つのサイトで異なります。もしかすると、年に一回行われる若草山の山焼きが植物の群集組成に影響を与えているのかもしれません。