20年ほど前、私が住んでいた奈良の田んぼにはいくつものオレンジの頭が並んでいました。アマサギは繁殖期の夏には頭の色がオレンジ色になり、他のサギと見分けやすいサギです。しかし、最近、奈良の田んぼでもオレンジの頭がめっきり見られなくなりました。今回は、日本で減少しているアマサギのお話です。
この記事の目次
アマサギとは?
ペリカン目サギ科アマサギ属の鳥です。アマサギ属に含まれる鳥はアマサギのみです。アフリカ、南北アメリカ、ユーラシア南部、オーストラリアなど世界に広く分布します。日本では、多くの地域で夏に飛来して繁殖しますが、九州以南の暖かい地域では越冬します。繁殖期である夏に、雌雄ともに頭部から頸部付近にかけてオレンジ色(飴色)になるため、アマサギ(飴鷺)という名がつけられています。
アマサギの生態
田んぼや湿地でよく見られますが、アオサギやダイサギほども河川ではあまり見かけない印象があります。また、他のサギ類が見られる環境よりも乾燥した耕作地でよく見られる傾向があり、耕運機の後ろを追い、掘り起こされた昆虫やカエルを食べる姿も観察されます。英名でもCattle egret(牛白鷺)と呼ばれ、大型の哺乳動物について回り、近くで飛び出した昆虫やカエルを食べる習性からそのような名がつけられています。哺乳動物について歩いた場合、単独で獲物を探した場合よりも、3.6倍も獲物を捕らえられたとの報告もあります。アフリカでは、シマウマやバッファローにもついて歩きます。
世界的には、非常に急速な分布拡大をしており、例えば、北アメリカ大陸では、1941年に北アメリカに南から入り、1962年には、カナダで初めて繁殖が確認されました。分布を急速に拡大できた理由は、世界各地にいる家畜を、餌の探索の際にうまく利用できたからではないかと推察されています。
日本での繁殖期は、4月〜7月頃で2〜5個の卵を産み、雌雄が共に抱卵、子育てをします。卵は25日前後で孵り、雛は孵化後一ヶ月から一ヶ月半で巣立ちます。
日本で少なくなったアマサギ
九州以北には、夏に繁殖のために訪れ、九州以南では、年中見られるアマサギですが、1970年代から1990年代にかけては、九州、東北、関東地方で分布拡大傾向にありました。しかし、1990年代の調査と2010年代の調査を比較すると、観察された場所が47%減少しました。他のサギ類については、コサギやゴイサギのような小型のサギ類はアマサギと同様に減少傾向が見られました。一方、ダイサギやアオサギのような大型のサギ類は、増加傾向が見られるようです。アマサギの発見数の減少については、餌である昆虫が農薬によって減少したこと、日本の農耕地が減少したこと、大型サギ類の増加に伴って集団繁殖地での巣場所の獲得競争が激しくなったことなどの原因が挙げられていますが、はっきりとはわかっていないようです。
参考文献: 植田睦之. (2019). 減少していたアマサギ. in 植田睦之, 新井実保子, 榎本博子, 大島理惠, 大嶽若緒, 柏﨑安男, 小峯 昇, 藤田 薫(編)全国鳥類繁殖分布調査ニュースレター 第14号 (p6).