強い動物と聞くと、大きな牙や爪をもち、高い攻撃力を持つものを想定するかもしれません。一方で、高い防御力を持つ動物もまた強い動物です。哺乳類の中で無類の防衛力を持つラーテルという動物を紹介します。
ラーテルとは?
ラーテル Mellivora capensis は食肉目イタチ科ラーテル属に属する唯一の種です。蜂の巣を襲ってハチミツを好んで食べるため英名ではhoney badger(ハチミツアナグマ)という名が付けられており、和名でミツアナグマとも呼ばれることもあります。アフリカの中部〜南部、インド、アフガニスタンなどに分布し、主に乾燥地に生息しますが、森林や湿原で生活するものもいます。繁殖期以外は単独で生活し、主に夜間に活動します。木登りも穴掘りも得意です。
ハチミツは好物ですが、それ以外にも昆虫や小型哺乳動物、両生類、果実を食べる雑食性の動物です。コブラやニシキヘビを食べたり、家畜のヒツジやヤギも襲って食べることが知られており、毒のある動物やサイズの大きな動物まで、獲物になる生き物の種類はかなり広いです。
ライオンに噛まれても死なないラーテル
ラーテルの頭部から背中の皮膚は分厚くて硬くかつ伸縮性があります。その強度はライオンに噛みつかれても歯が通らないほどであり、また、皮膚に伸縮性があるおかげで背中に噛みつかれながら振り向いて噛みつき返すことができます。ライオンは、噛み付いてもラーテルに反撃を食らうため、ラーテルにちょっかいを出すことを諦めることがあるようです。この皮膚は、ヤマアラシの棘やハチの針からもラーテルを守ります。しかし、腹側の皮膚は背中ほども硬くはないため腹側を攻撃された場合には大きなダメージを受けます。そのため、ライオンやヒョウ、ワニ、ハイエナなどに捕食されることがないわけではありません。
毒ヘビに噛まれても死なないラーテル
ラーテルは、毒ヘビを獲物として食べることがあります。また、コブラ科やクサリヘビ科の毒ヘビに噛まれたとしても、数時間で回復することができます。ヘビ毒による作用はいくつかありますが、作用の一つに以下のようなものがあります。ヘビ毒に含まれるα-ブンガロトキシンが筋肉側にあるニコチン性アセチルコリン受容体に結合することによって、神経伝達物質であるアセチルコリンの結合を阻害してしまい、その結果、筋肉が弛緩して、麻痺します。呼吸筋が麻痺するというものです。場合によっては死に至ります。
ヘビ毒に抵抗性をもつラーテルは、ニコチン性アセチルコリン受容体にα-ブンガロトキシンが結合するのを阻害することにより、α-ブンガロトキシンに対する抵抗性を獲得したと考えられています。なお、ラーテルと同様にヘビ毒に抵抗性を持つことが知られている、マングースやハリネズミ、ブタも同様にニコチン性アセチルコリン受容体にα-ブンガロトキシンが結合できなくなるようにする機構を持っており、それらはそれぞれ独立に進化したと考えられています。
【参考文献】
Drabeck, D. H., A. M. Dean, and S. A. Jansa. 2015. Why the honey badger don’t care : Convergent evolution of venom- targeted nicotinic acetylcholine receptors in mammals that survive venomous snake bites. Toxicon 99:68–72.