昆虫を呼ぶための華美な花を咲かせるにも関わらず、ホトケノザが生育する環境には現在、その送粉昆虫がほとんど生息していません。ところが、ホトケノザはあちらこちらでよく見られます。前回に引き続き、ホトケノザの生態について。今回は種子生産に関するお話です。
この記事の目次
閉鎖花を作るホトケノザ
ホトケノザ Lamium amplexicaule は自家受粉をする植物です。自家受粉とは同じ個体の花粉によって受粉することをいいます。他個体の花粉を受粉することによって遺伝的な多様性が高い子孫を残すことが本来有性生殖をする目的であり、自分の花粉で受精してしまうとその目的は達成されません。そのため、自家受粉を防ぐ仕組み(自家不和合性)を持っている植物も数多くあります。しかし、花粉が十分に運ばれない環境下であれば、選り好みをしていては子孫を残せないリスクが高く、逆に自株の花粉でも種子生産を行うことができる性質(自家和合性)の方が有利となることも多いです。さらに送粉者の獲得が難しい状況下では、送粉者の助けを借りずに自動で受粉する仕組み(自動自家受粉)が適応的です。ホトケノザには、開放花(普通の花)と閉鎖花の2種類の花があります。閉鎖花は、花を開くことなく自動自家受粉し、種子を作ります。閉鎖花の中でも、花粉と柱頭がきちんと作られますが、花の蕾は小さいままであり、その蕾が開くこともありません。自動自家受粉する際には必要がない花弁を作らないことで、不要な投資を減らしているのです。
ホトケノザが閉鎖花を作る理由
一般に、植物が閉鎖花を作る理由は、花を作るコストを下げて自動自家受粉をするためと考えられていますが、ホトケノザでは近縁種との交雑を防ぐ目的もあるのではないかと考えられています。ホトケノザの近くに同属他種であるヒメオドリコソウ Lamium purpureum が生えていると、ホトケノザの閉鎖花の割合が高くなることが報告されています。
また、ヒメオドリコソウが植えられたポットに水をやり、そこから出てきた水にホトケノザを植えたポットを浸すと、ホトケノザの閉鎖花が増えたという結果があります。このことは、ホトケノザは、ヒメオドリコソウから出てきた何らかの化学物質に反応して閉鎖花を付けることを示唆します。
【参考文献】
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-25430199/25430199seika.pdf