めちゃめちゃ居るのに知名度がイマイチなムクドリ

2022年4月26日 ALL生物

ムクドリは、カラスやハトと比べると認知度が低い鳥ですが、都市部でも見られる身近な鳥です。街中では、大群となって街路樹に集まり、日没後にけたたましく鳴いている様子がしばしば見られます。今回は、身近な割にはあまり知られていないムクドリの生態の話です。

ムクドリとは?

Spodiopsar_cineraceus

Photo by Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ムクドリ Sturnus cineraceus は、スズメ目ムクドリ科ムクドリ属の鳥です。ムクドリの和名については、ムクノキの果実を好んで食べるためムクドリと呼ばれるようになったという説や、集団で樹木にとまって、ねぐらを作ることから群木鳥(むれきどり)と呼ばれたのが転じたという説があります。

全長は24cm、スズメとハトの間くらいの大きさで、全身が黒っぽい褐色で顔の部分だけ境界が不鮮明な白色が入ります。黄色い嘴と足がよく目立ちます。中国、モンゴル、朝鮮半島、ロシア南東部、日本に生息します。日本では、九州以北では留鳥もしくは漂鳥、南西諸島では冬鳥です。

ムクドリの生態

果実も食べますが、地面を歩き回り昆虫も探して食べます。ヒヨドリもよく似た体サイズで、同じような体色をしていますが、ヒヨドリはムクドリよりも果実をよく食べるため、ムクドリに比べて樹上で見られることが圧倒的に多いです。ムクドリ

ムクドリは、土の中に潜む虫を好んで探して食べる習性を持っているため、虫の採食には舗装されず土がむき出しになっている公園や河原などが必要です。農作物の害虫となる虫も食べてくれる益鳥として昔は重宝されていました。巣は、自然界では樹洞に作りますが、人工物の隙間にも作ることができるため、建造物しかない場所でも営巣場所には困りません。

群れて街で眠る

ムクドリは、昼間に採食をしているときもよく何羽か集まっていますが、夜間にはもっと大群になります。昔は竹林や雑木林に集まっていましたが、近年は駅前の街路樹のような人が集まる場所にねぐらを作るようになりました。ねぐらでは、ムクドリは大きな声で鳴いたり糞をしたりするため、街中では問題になることがあります。大きな声で鳴くのは、ねぐらに入ってから1時間ほどで、場所の取り合いをしているためのようです。

ねぐらのできやすい場所の特徴を知るために、日本全国でムクドリのねぐら調査が実施されました。ねぐらは、大阪、埼玉、千葉、東京の順に多く報告されました。さらに最も多く報告された大阪とその近傍で行われた調査では、ねぐらは、商業地域の沿道や駅前にできやすく、広域的には河川、湖沼が少なく、中・高層住宅地が多く、道路用地の多い地域にできやすいという傾向が報告されています。また、全街路樹上のねぐらの69.3%がケヤキであり、ついでクスノキが10.9%でした。街路樹の樹種として全国で最も使用されているのが、イチョウでその次がサクラ、3番目がケヤキで全体の7%に過ぎません。ケヤキという樹種がムクドリのねぐらとして適しているのか、街路樹としてケヤキが選択されるような場所が適しているのかは定かではありませんが、少なくとも街路樹のケヤキでムクドリのねぐらが作られる傾向が高いようです。街路樹の近くに高い建造物がある場所や、街灯の近くに電線がある場所ではよりねぐらが形成されやすいという傾向も報告されています。

ケヤキの街路樹

ムクドリがねぐらにすることがあるケヤキの街路樹

この研究については調査バイアスが含まれていると考えられるものの、この結果は少なくとも私の感覚にそぐうものです。調査範囲には山林や緑地、公園も含まれましたが、それらよりも街中にねぐらを作る傾向が高かったという結果と、ムクドリの採餌場所(昼間の行動場所)としては街中のような環境よりも舗装されていない公園や緑地が適していることを合わせて考えると、ムクドリは、行動範囲にねぐらにできる樹林が無いから仕方なく街中をねぐらにしているというよりは、むしろ街中に好んでねぐらを作るようになったと推察できます。街中の方が、天敵となる猛禽が少なく、安全であると学習したのかもしれません。

【参考文献】
與那城千恵, 松本邦彦, 澤木昌典. 2020. 市街地におけるムクドリの集団ねぐらと周辺環境との関係. ランドスケープ研究 13:80–86.