タケノコ掘りをしていると、採ったタケノコにやたらとハエがたかるのを不思議に思ったことはないでしょうか。一体ハエは何のためにタケノコに集まってくるのでしょう。
タケノコに集まるハエの観察
タケノコを掘り起こして切ったものや、外側の皮を置いておくと数分後には、ハエがたかり始めました。
はじめは、タケノコの汁でも吸っているのかと思いましたが、よくみてみると、お尻をタケノコに差し込むような行動をとっている個体がありました。
11日後、朽ちかけたタケノコを割ってみると、白い幼虫がたくさん見つかりました。
タケノコの内部はボロボロに粉砕されていました。
同じ日に捨てた幼虫が入っていない別のタケノコの内部は、ボロボロになっていなかったため、この幼虫に食べられたことによってタケノコが粉砕されたのだと思われます。
そのタケノコを家に持ち帰り、幼虫を育ててみることにしました。
タケノコの収穫からおよそ一ヶ月後、数種、数十匹のハエがタケノコから出てきました。
出てきた成虫の中に、卵を産み付けていると思われる行動をしていたハエと同種のものを見つけることはできませんでしたが、少なくとも数種のハエの幼虫が腐ったタケノコを餌にして、成虫まで成長したと考えられます。
このことから、タケノコに集まるハエの中には、卵を生むためにやってきていると考えられる種が含まれることがわかりました。熱帯では、今回の観察のように切り取られたタケノコにすぐに集まり、卵を産み付け、その幼虫がタケノコの中で育ち、タケノコが朽ちる前に成虫となって出てくるミズアブの仲間がいることが報告されています。
どうしてタケノコを掘り起こした直後にハエが集まるのか
タケノコは、トウモロコシやサヤエンドウと同じくらいの量のタンパク質を含みます。タンパク質は、ハエの幼虫にとって魅力的な栄養源になると考えられます。しかし、タケノコは、何層もの分厚い皮に覆われており、普通に生えている状態では、今回観察したような何の変哲もない(分厚い皮を越えて産卵するための特殊な構造をもたない)ハエがタケノコの深部の柔らかい部分に卵を産み付けるのは、困難であると考えられます。そのため、タケノコが切り倒されたり傷つけられたりすると、今こそとばかりに集まって産卵しているのだと考えられます。タケノコは、日本では特にイノシシの大好物であり、人が切り倒さなくても動物が倒して、残骸が放置されることは、森林内ではそれほど珍しくありません。そのため、ハエ自身がタケノコの皮を剥がしたり穴を開けたりする能力がなくても、タケノコの深部に近い部分に卵を産み付ける機会が得られると推察されます。
タケノコは、ヒトにとっても独特の匂いがします。同じ成分をハエが感じているかどうかはわかりませんが、ハエが短時間に大量に集まってくることから、タケノコが傷つけられたときに出る匂い(揮発成分)によってそれらのハエが誘引されている可能性が高いと考えられます。
なお、今回成虫の産卵行動や幼虫が観察されたハエが、専食性でタケノコのみを食べる種であるのか、広食性でタケノコに加えて他の餌資源をも食べるのかについては、分かりません。