ウサギといえば、長い耳と後ろ足を持つ、あまり鳴かない動物を思い浮かべると思います。しかし、アマミノクロウサギ Pentalagus furnessi は耳も足も短く、よく鳴きます。どうして、こうも違うのでしょう。前回に引き続き、アマミノクロウサギのお話です。
この記事の目次
アマミノクロウサギの特徴
1. 耳が短い
大きな耳には音を捉える役割があります。例えば、肉食のオオミミギツネは、餌となる虫が動く音を聞き取るために耳を大きく発達させたと考えられています。一方、ウサギは草食であるため、大きな耳を餌を探すために使うわけではありせん。ウサギの長い耳は、捕食者の接近にいち早く気づくのに役に立っていると考えられます。
また、大きな耳は体温を下げる働きがあります。砂漠地帯に生息するジャックウサギは耳が非常に長いのに対し、局地に暮らすホッキョクウサギは耳が短いことから、ウサギについても耳はラジエーターの役割を果たしていると推察されます。このラジエーターとしての機能は、天敵に追われて走り、体温が高くなった際に特に重要であると考えられます。
アマミノクロウサギは耳が短いため、上記のような、天敵の接近音を聞く能力も、天敵から逃げるために走った時に体温を下げる能力も耳の長いウサギに比べて低いと考えられます。
2. よく鳴く
普通のカイウサギが鳴くことはほとんどないように、他のウサギ科のウサギもほとんど鳴きません。ところが、アマミノクロウサギは鳴き声によるコミュニケーションを頻繁に取ります。鳴くことは、天敵に居場所を知らせることになり、天敵が多くいる地域でこのような習性を発達させることは致命的となりえます。
3. 後ろ足が短い
一般的なウサギの仲間は、天敵に襲われそうになると走って逃げます。ウサギの仲間で最も早く走れると言われるジャックウサギでは、約72km以上で走ることができ、他のウサギの仲間の多くもかなり早く走ることができます。鋭い牙や爪も持たなければ、スカンクのような強烈な臭い匂いも出せないウサギにとって、早く走れることは天敵から逃れにあたって非常に重要であると考えられます。しかし、アマミノクロウサギは後ろ足が短いため、あまり早く走ることができません。
大陸に生息するウサギほど走って逃げる必要がなかったアマミノクロウサギ
ウサギは進化的にネズミと近い関係にあり、アマミノクロウサギの耳が短い形質は原始的な特徴であると考えられています。大陸では、天敵の接近にいち早く気づき、素早く逃げるために、ウサギは耳と後ろ足を進化させました。現在の大陸では、キツネやイタチなどの哺乳動物、タカやワシなどの鳥類など、ウサギを追いかけて捕食する動物はたくさんいます。一方、それらの天敵がいなかった奄美大島や徳之島では、耳や後ろ足を伸ばさなくても生き残ることが可能だったと考えられます。
このように走る能力も、天敵の接近に気づく能力も低いアマミノクロウサギが、人間が近年島に持ち込んだイヌ、ネコ、マングースの格好の餌食になるのは、想像に難くありません。
ハブに対抗するための習性をもつアマミノクロウサギ
しかし、アマミノクロウサギはすべての肉食動物に対しての防御能力が低いわけではありません。アマミノクロウサギが生息する島には、本種の子供を捕食するハブが生息しています。アマミノクロウサギはハブに子供を食べられないようにするために、子供を育てている巣穴には、外出時に土をかけて蓋をします。早く走ったり、小さな音を聞きとったり、体温を急速に下げられることよりも、巣の入り口を塞ぐ習性を持つことことが、彼らの天敵からの捕食を回避するのに最も有効な手立てであったと考えられます。