フレーメンでわかる女心

2023年1月13日 ALL生物

ヒトはコミュニケーションをとるとき、言葉を使用することが多いですが、他の動物はヒトほども複雑な音声コミュニケーションは行いません。その代わり、発達した嗅覚を使って、ニオイで相手の情報を得ることができる動物は数多くいます。

唇を引き上げる行動、フレーメン

ヒガシクロサイ

フレーメンをするヒガシクロサイ

ネコが口をぽかんと開けたり、ウマが前歯をむき出しにすることがあります。これはフレーメンと呼ばれ、他個体が出したフェロモンなどを受容するために唇を上に引き上げる行動です。唇を上に引き上げることにより、鋤鼻器(じょうびき: ヤコブソン器官)と呼ばれる嗅覚器官に、外から吸い込まれたフェロモンがより届きやすくなります。そのため、鋤鼻器が発達した動物は、フェロモンをよく嗅ごうとしたときにそのような独特な行動をとります。フレーメンをする生物には、ネコやウマに加えて、イヌやサイ、キリンなど様々な哺乳動物種が知られています。

どんな動物が鋤鼻器を持っているの?

鋤鼻器は魚類にはなく、それ以降に分化した両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類が持っている器官です。爬虫類のトカゲ、ヘビを含む有鄰目では非常に発達している一方、同じ爬虫類であるワニやカメの仲間ではほとんど消失し、鳥類もほとんど消失しています。哺乳類では、大半の種が機能する鋤鼻器を持っており、鋤鼻器を使わないのはヒトを含む霊長類の一部、コウモリ類の一部、クジラなどの水棲哺乳類のみです。また、哺乳動物の鋤鼻器は、フェロモンを受容するのに特化していると考えられています。

多くのフェロモンが含まれるオシッコ

フレーメンは、オスがメスの発情のタイミングを知るために行うことがよく知られています。フェロモンは、尿の中に含まれているため、オスは、メスの尿を舐めたり、メスの性器のニオイを嗅いだ後にフレーメンをすることがよく観察されます。キリンでは、メスが尿をしている最中に、蛇口から水を飲むイヌのように、オスが舌をのばしてそれを舐め取っている様子がみられます。

キリン

排尿中のメスキリンのお尻に顔を近づけるオスキリン

キリン

その後顔を上に向けてフレーメン

しかし、フレーメンはオスだけが行うのではなく、メスがメスに対して行うことも知られています。アンテロープの仲間は妊娠や出産を同調させたり、同じ繁殖状態のメス同士で行動を共にするためにメス同士でフレーメンを行うことが知られています。

動物園のヒガシクロサイはメスがオスの尿の痕のニオイを嗅ぎ、フレーメンを行っていました。

ヒガシクロサイ

排尿するヒガシクロサイのオス

ヒガシクロサイ

オスが尿をした付近のニオイを嗅ぐヒガシクロサイのメス

ヒガシクロサイ

フレーメンをするヒガシクロサイのメス

また、フレーメンは同じ種の別個体に対してだけではなく、ヤギにウシやゾウ、ヒツジなど別種の動物の尿を吹きかけた場合や、ラクダに香水やコーヒーの香りを嗅がせた場合にも起こることが報告されています。このことから必ずしも、生殖に関する情報を得るためだけに行われる行動ではないと推察されています。