どうして新葉は赤いのか?ー新葉が赤色である理由ー

2023年5月8日 生物

前回、しばしば新葉が緑色ではない理由をお話しました。今回は、ではなぜ、新葉は、赤色なのかについてお話したいと思います。

新葉が赤いのはなぜ?

遅延緑化

アセビの新葉

遅延緑化する植物のほとんどの新葉は、赤か赤紫っぽい色です。この赤っぽい色はアントシアニンと呼ばれる果実を赤くするのにも植物がよく利用する色素です。緑化しないだけでなく、赤い葉が多いことにも意味があるのではないかとこれまで様々な仮説が提唱されてきました。Dominy (2002) は、それまでの仮説(下記1 – 3)を否定し、葉を食べる動物から見えにくくするのが目的ではないかという仮説(下記 4)を支持しています。

1. 紫外線から新葉を守る

カナメモチ

カナメモチ

反論: 樹冠(樹木の一番上)にある葉が最も強い日差しにさらされるため、紫外線から葉を守るのが目的であれば、樹冠に達する種の新葉ほど赤くなるはずですが、そのような傾向はありません。

2. 光阻害(強い光により光合成機能が低下すること)を防ぐ

反論: 光阻害を防ぐには、アントシアニンではなくキサントフィルという色素が有効であることが報告されています。また、光があまり当たらない下層の葉が持っている光合成器官にはアントシアニンが光阻害を防ぐ可能性があるという報告もありますが、その場合は下層の種ほど赤くなる傾向が見られるはずです。しかし、そのような傾向は見られません。

3. アントシアニンがあることで病原菌に侵されにくい

反論: 病原菌類が活発になる、湿った環境(樹冠ではなく下層部)で赤い葉が多いと予想されますが、樹冠に達する種と下層の種は同程度に赤い葉をつける種が存在します。

4. 葉を食べる昆虫から見つかりにくくなる

ヒメスジコガネ

葉を摂食するヒメスジコガネ

アントシアニンは酸度によって青色にもなり得ますが、ほとんどの遅延緑化する種の葉が赤色になっていることから、単純にアントシアニンを持っているということだけでなく、葉が赤く見えることが重要である可能性があります。葉を食べる昆虫や草食動物の多くは、赤色の領域に反応する受容体を持たないため、赤色の葉は暗い色に見えるか、枯れていると認識されると考えられ、赤い葉はそれらの生物に対して隠蔽色として機能する可能性があります。

私の反論: 4の仮説についても、赤色領域の受容体を持たない生き物に対して、赤色そのものはシグナルとなり得ません。植食者に対して目立つか否かは、直接的には赤色領域ではなく、それより短波の光(色)を受容できる領域の反射で決まるはずです。ただ、Karageorgou and Manetas (2006) は葉にアントシアニンが存在すると、植食者の視覚領域全体で葉の反射率が低下する可能性を指摘しています。それが正しいとすると、間接的ではありますが、新葉に赤色のアントシアニンが含まれることに生態学的意義はあると考えられます。しかし、その場合であっても、アントシアニンを使わないで反射率を下げることにコストがかかることが前提となります。もし、コストをかけずに反射率を下げられるのであれば、やはり、わざわざアントシアニンを保持することの合理的説明とはなりません。

 

[参考文献]

Dominy, Nathaniel J., Peter W. Lucas, Lawrence W. Ramsden, Pablo Riba-Hernandez, Kathryn E. Stoner, Ian M. Turner. 2002. Why are young leaves red? Oikos 98(1): 163–76.
Karageorgou, P., and Y. Manetas. 2006. The importance of being red when young: anthocyanins and the protection of young leaves of Quercus coccifera from insect herbivory and excess light. Tree Physiology 26(5): 613–21.