まっくろくまばち

2023年5月23日 生物

ここ数年、黄色い胸のキムネクマバチに混じって、真っ黒いクマバチを目にすることが多くなりました。近年急速に日本で分布を拡大しているタイワンタケクマバチです。

タイワンタケクマバチとは?

タイワンタケクマバチ

タイワンタケクマバチのメス

タイワンタケクマバチXylocopa tranquebarorum は、ミツバチ科クマバチ属のハナバチです。インドから中国、台湾に自然分布します。日本では愛知県で2006年に初めて確認され、現在、東は長野県や埼玉県、西は鳥取県や兵庫県で見つかっています。愛知県で見つかったものは、中国大陸より入ったものであることが遺伝解析より確認されています。タイワンタケクマバチは、枯れた竹の中に巣を作るため、中国から輸入された竹の加工品の中にタイワンタケクマバチの幼虫が入っていたのではないかと考えられています。

タイワンタケクマバチとキムネクマバチとの見分け方

タイワンタケクマバチが分布を拡大している本州には、在来のクマバチの亜種、キムネクマバチ Xylocopa appendiculata subsp. circumvolans が生息しています。クマバチの体つきは雌雄ともタイワンタケクマバチと似ていますが、名前の通り胸が黄色いため区別は容易です。

クマバチ

ミソハギに訪花するキムネクマバチ

タイワンタケクマバチには、雌雄差があります。メスは顔も体も確かに真っ黒なのですが、オスは、胸に白から薄茶に見える毛が生えています。また、メスの顔面は真っ黒なであるのに対し、オスには黄色い四角っぽい模様があります。なお、クマバチのオスの顔面にも黄色い模様がありますが、その形は三角形です。

タイワンタケクマバチ

タイワンタケクマバチのオスの顔

タイワンタケクマバチの生態系への影響

タイワンタケクマバチが集まる花は在来のクマバチと重なっており、クマバチとタイワンタケクマバチが同じ花に訪れている様子がよく見られます。そのため、クマバチとの餌資源の競合が起きることが懸念されています。
もう一つの懸念は、共生しているダニに関する影響です。クマバチの仲間は、共生するダニが付着するためのアカリナリウム acarinarium と呼ばれるくぼみを胸部や腹部に持っています。共生ダニは、巣の中で親バチが運んできた花粉に加えて、幼虫の排泄物も食べます。クマバチ属は、ダニに自分の排泄物を処理してもらうことで利益を得ていると考えられています。宿主の種によってこの共生ダニの種も異なります。タイワンタケクマバチは共生ダニも日本に連れ込んでおり、このダニが日本のクマバチに寄生するようになると、在来の共生ダニやクマバチに対して負の影響をもたらすのではないかと危惧されています。

[参考文献]
Okabe, K., Masuya, H., Kawazoe, K., and Makino, S. 2010. Invasion pathway and potential risks of a bamboo-nesting carpenter bee, Xylocopa tranquebarorum (Hymenoptera: Apidae), and its micro-associated mite introduced into Japan. Appl. Entomol. Zool. 45(2): 329–337. doi:10.1303/aez.2010.329.