根も葉もないこともないけど根も葉もいらないネナシカズラ
寄生植物というと、ラフレシアが有名で、なんとなく熱帯の植物と思っている方もおられるかもしれません。ところが、実は日本でも身近な環境で暮らす寄生植物があります。その一つ、ネナシカズラのお話です。
寄生植物とは?
寄生植物とは、他の植物から栄養を得て生きる植物を指します。寄生植物は、葉緑体を持ち自らも光合成を行う半寄生植物と、全く光合成を行わない完全寄生植物の2つに大きく分かれます。完全寄生植物が寄生植物の約9割を占めます。なお、菌類に寄生する植物は菌従属栄養植物(腐生植物)と言われ、寄生植物には含めません。
ちなみに、動物に寄生する植物は知られていません。また、他の植物に着生して根を地上におろし、その後宿主の木を絞め殺してしまうことで有名な絞め殺しの木の仲間は、宿主に巻き付いているだけで宿主から栄養を得るわけではないため寄生植物ではありません。
寄生植物は、世界で22科約4000種が知られ、被子植物全体の1%ほどを占めます。10回以上独立に出現したと考えられています。
ネナシカズラとは?
ネナシカズラ Cuscuta japonica は、ナス目ヒルガオ科ネナシカズラ属の植物です。ネナシカズラ属の植物は世界で150〜200種が知られており、すべての種が寄生植物ですが、完全寄生するものと半寄生するものが存在します。ネナシカズラは、東アジアに分布し、国内では北海道から沖縄に分布します。
ネナシカズラの生態
地上で種子が発芽すると、数日以内に寄主植物に巻き付きます。数日以内に寄主植物にたどり着けない場合は、枯れてしまいます。寄主植物の特異性は低く、クズやヨモギなど様々な植物に寄生します。
寄主植物に巻き付いたネナシカズラは、茎から寄生根と呼ばれる寄生のための根を出し、寄主植物の茎に穴を開けて維管束に寄生根を差し込みます。寄生後、発芽時に伸ばした根は枯れます。葉は2mm以下の鱗片状でほとんど目立たず、茎だけが寄主植物に絡まって覆いかぶさっているような状態になります。植物全体に葉緑体をほとんど持たず黄色からオレンジっぽい色をしています。8月〜10月に花を咲かせ、さく果をつけます。冬季には枯れる一年草です。
どこで見られるの?
ネナシカズラは日当たりの良い場所に生育する草本や低木に巻き付きます。河川敷のような広範囲に渡って寄主植物が群落を作っているような場所で見つけやすいです。黄色っぽい枝分かれしたツルが、覆いかぶさっているように見えます。在来のネナシカズラだけではなく、アメリカネナシカズラ Cuscuta pentagona も1970年代に東京で初めて発見されて以来、日本のほぼ全土に移入分布しています。両種はよく似ていますが、在来のネナシカズラの茎には紫色の斑点がある一方、外来のアメリカネナシカズラにはその斑点がありません。
【参考文献】
加賀悠樹ほか. (2016). 茎寄生植物ネナシカズラの寄生戦略−茎寄生研究用のモデル植物を目指す. 生物の科学 遺伝 Vol. 70 No. 4 284-288. available at: http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/nishitani_lab/essay/pdffile/iden284~288.pdf