フユシャクのメスはなぜ飛ばない?

2024年1月7日 生物

前回はフユシャクの特徴について紹介しましたが、今回は、どうしてメスだけが飛翔能力を失ったのかについてお話したいと思います。

どうして、メスは翅を持たないの?

フユシャクのメス

フユシャクのメス

複数回独立の系統で進化したフユシャクすべてについてメスが飛べないことから、メスの飛翔能力の喪失と、成虫が冬に活動することには強い関係があると考えられます。飛べることの利点は、天敵から逃れやすくなること、餌を広範囲で探せることが挙げられます。

天敵が少ない

オオカマキリ

オオカマキリ

まず天敵についてですが、冬季は昆虫を好んで食べる鳥であるムシクイの仲間がいない時期であり、トカゲなどの爬虫類も、カマキリなどの肉食性昆虫の仲間もほとんど活動していません。そのため、翅を使って天敵から逃げなければいけない機会が暖かい時期よりも少ないと考えられます。

餌資源が少ない

餌資源についても、蛾の成虫がよく利用する流動性のある樹液や花蜜、熟れた果実は冬季には手に入りにくく、飛べたとしても冬は餌にありつけない可能性が高いです。そのため、フユシャクの仲間は雌雄ともに口器を持っておらず、成虫になってから採餌せず、餌を探して飛ぶ必要はありません。

寒い時期に飛翔するのはコストがかかる

さらに、寒い時期は、暖かい時期よりも飛ぶことにエネルギーを消費します。飛べるほどに翅を高速で動かすにはある程度体温が必要です。そのため、気温が低ければ低いほど、飛ぶ前に体温を上げるためのエネルギーが必要となります。つまり、前述の通り寒い時期は、暖かい時期よりも飛ぶことの利点が少ないにも関わらず、そのコストは大きいと考えられます。

どうしてオスは翅を持っているの?

シロオビフユシャク

シロオビフユシャク

冬季に活動するにも関わらず、オスの成虫は翅を持っています。これは、オスは配偶相手を探すために翅を持つメリットがメスよりも大きいためと考えられます。卵子に比べて精子は1つあたりのコストが小さく、十分量の精子を作るのに必要な資源量は卵子と比べてずっと少ないです。もし、オスがメスと同じ資源量を使って配偶子を生産すると、不必要に多量の精子が生産されてしまいます。そのため、オスは配偶相手の探索能力向上に寄与する飛翔能力にも資源を投資した方が、残せる子孫の数が多くなると考えられます。また、卵子に比べ精子はかなり軽いため、十分量の配偶子を用意した場合であっても、オスはメスよりも小さいエネルギーで飛翔することができるものと考えられます。