トカゲの母さん
鳥類と異なり、爬虫類の多くは卵を産むと母親はすぐにどこかに行ってしまいます。ところが、そんな爬虫類の中にも卵の世話をする種がいます。日本でよくみるニホントカゲの仲間はそのひとつです。今回はトカゲの卵の世話についてのお話です。
この記事の目次
卵の世話をするニホントカゲ
ニホントカゲ類(ニホントカゲ Plestiodon japonicus とヒガシニホントカゲ P. finitimus)は、5-6月に地中に卵を産みます。一回に産む卵は5から16個ほど。メスは孵化するまでの30日から50日の間、卵のそばをほとんど離れず、餌もほとんど食べずに世話をします。メスは、卵を転がすような行動を見せます。ニホントカゲ類の卵は殻が薄く、外から水分を取り込むことが出来ます。メスの行動はこのことと関連していると考えられます。
卵が産み落とされてから外部から水分を吸収できるため、メスは体内で卵を作る際に、孵化までに必要なすべての水分を卵に入れる必要がありません。そのため、産卵する卵のサイズを小さくすることが可能となります。メスの体内で卵一個あたりのスペースも小さくて済むため、より多くの卵を産むことができる、もしくはお腹が大きいことによるメスの身体能力の低下を緩和するというメリットがあると考えられます。
トカゲが子育てをする意義は?
ニホントカゲ類と同属のシナトカゲ Plestiodon chinensis では、母親による世話がある場合とない場合について詳しく比較研究されています (Hongliang et al. 2022)。
この研究では、メスが卵を世話することで、卵の孵化率が上がり、孵化までの期間は短縮されることが示されました。孵化60日後の生存率は世話をされた卵から産まれた子は23.8 %あったのに対し、世話無しだとすべてが死亡しました。また、世話されなかった卵から生まれた子供は、世話されたものと比べて小さく、走るのも遅く、その差は、成長とともにより大きくなりました。
世話あり | 世話無し | |
---|---|---|
孵化率 | 高:99.4 %(160/161) | 低:26.3 %(20/76) |
孵化日数 | 短:38日 | 長:35日 |
60日後の生存率 | 高:23.8 %(30/160) | 低:0 %(0/20) |
体サイズ | 大 | 小 |
走る速さ | 速 | 遅 |
卵の世話には、親が卵を舐めるような行動がよく観察されました。この行動には、卵への水分供給と表面にカビがはえるのを防ぐ効果があると考えられており、これらのことが孵化率に影響したと推察されます。孵化までの期間の短縮は、メスのいる巣では気温が0.3度ほど高く保たれており、そのことが影響した可能性があります。また、卵の世話は、孵化後の発育にまで影響を及ぼすことが示唆されました。
恒温動物である鳥とは異なり、変温動物である爬虫類は、孵化までの期間に卵を温める必要は必ずしもないと考えられます。そのため、トカゲが卵の世話をするのは天敵による捕食や、水没といったトラブルを解決するためだと考えられることがあります。この実験結果は捕食や水没がない状況でも、卵の世話は子の生存に大きな影響を与えることを示しています。シナトカゲの場合、卵の世話は、卵の正常な発生に極めて重要な行動と考えられ、このことは同属のニホントカゲ類にも当てはまる可能性があります。
【参考文献】
栗田和紀 (ed.) 2023. 日本のいきものビジュアルガイド はっけん!トカゲ. 緑書房.
Hongliang LU, Wang J, Kang C & Weiguo DU. 2022. Maternal egg care enhances hatching success and offspring quality in an oviparous skink. Integrative Zoology, 17(3): 468–477.