ハラビロカマキリ大ピンチ!
網戸に見慣れない雰囲気のカマキリがいると思ったら、近年急速に日本で発見数が増加しているムネアカハラビロカマキリでした。侵入地域では在来種のハラビロカマキリを駆逐するのではないかと問題になっています。
ムネアカハラビロカマキリとは?
ムネアカハラビロカマキリ Hierodula sp. は、カマキリ科ハラビロカマキリ属の昆虫です。国内で見られるムネアカハラビロカマキリは単一種であるかは分かりません。名前の通り成虫の前胸の腹側が赤っぽいため、在来種のハラビロカマキリとの見分けはすぐにつきます。
どうやって日本に入ったの?
ムネアカハラビロカマキリは卵鞘が付着した竹箒を中国から輸入したことによって、日本に侵入したと考えられています。実際に輸入された竹箒に付着した卵鞘からムネアカハラビロカマキリの幼虫が生まれてきたことが確認されています。2000年に東京都で見つかった後、2010年に福井県で確認され、2021年現在で新潟から宮崎の23都府県で見つかっています。自力の移動による年間の分布拡大速度は100mほどと見積もられており、急激な日本での分布拡大は、車や電車での移動や、複数回の海外からの侵入によるものである可能性があります。
ムネアカハラビロカマキリに追い出される在来種ハラビロカマキリ
日本では、ハラビロカマキリがほとんど見られなくなり、代わりにムネアカハラビロカマキリが見られるようになった地域が複数箇所で報告されており、中には、数年でその置き換わりが起こった地域もあります。この原因について、餌資源の取り合いや、ハラビロカマキリがムネアカハラビロカマキリに捕食される可能性について検討されましたがどちらもそれほど大きな影響ではないという結論に至っています。一方、繁殖干渉が強く作用している可能性が示唆されています。ハラビロカマキリとムネアカハラビロカマキリの交尾は、どちらもメスがオスの顔や胸を捕食している最中に行われることがよくあります。
ムネアカハラビロカマキリは雌雄それぞれハラビロカマキリよりも体サイズが1cmほど大きいため、ムネアカハラビロカマキリのオスが捕食されながら伸ばした交尾器は、ハラビロカマキリのメスの交尾器に届きやすいです。一方、ハラビロカマキリのオスは、ムネアカハラビロカマキリのメスよりも小さいことが多く、捕食されながら交尾器を伸ばしても届かないことが多いようです。両種のメス共に、別種のオスに交尾されると交尾器が損傷して死亡することがあります。
つまり、ハラビロカマキリのメスはムネアカハラビロカマキリのメスに比べて、別種のオスと交尾に至ることが多く、その結果交尾器に損傷を受け死亡するリスクが高いと考えられます。一方ムネアカハラビロカマキリのメスはハラビロカマキリのオスと交尾に至らないことが多いため、交尾器損傷・死亡のリスクが低いです。
ムネアカハラビロカマキリとハラビロカマキリの繁殖行為でよく見られるパターン
ムネアカ(メス) | ムネアカ(メス) | |
ムネアカ(オス) | 捕食・交尾 | 捕食・交尾(交尾器損傷) |
ハラビロ(オス) | 捕食のみ | 捕食・交尾 |
このことがムネアカハラビロカマキリの侵入によるハラビロカマキリの駆逐の主要因である可能性があります。
【参考文献】
啓輔橘 (2021) 在来種ハラビロカマキリと外来近縁種ムネアカハラビロカマキリ間の配偶選好性と種間共食い. タカラ・ハーモニストファンド研究助成報告, 1–15.
Iyoda S, Nemoto S, Kosaka H, Koumura H, Sahashi T, Kishimura S, Inukai R, Sugiura K, Nagasaka Y, Shiraishi T & Tatewaki T (2022) 愛知県岡崎市におけるムネアカハラビロカマキリと ハラビロカマキリの分布状況. 豊橋市自然史博物館研報, 32(32): 1–7.