セイヨウオオマルハナバチによる生態系の撹乱

前回、セイヨウオオマルハナバチが日本で野生化してしまったことについてお話しましたが、今回は、セイヨウオオマルハナバチが生態系に及ぼす影響についてお話したいとおもいます。
在来マルハナバチとの競合
まず、セイヨウオオマルハナバチが訪花することで、在来のハチが得ることができる花の蜜や花粉が減る可能性が考えられます。セイヨウオオマルハナバチは、コロニーの個体数多く、巣の近くでは特にインパクトが大きいと考えられます。また、セイヨウオオマルハナバチが、在来種から奪うものは食べ物だけではありません。マルハナバチの仲間はネズミの古巣や人家の軒下などに巣を作りますが、巣に適した場所を見つけることはそれほど容易ではないらしく、すでに他のコロニーが作った巣の乗っ取りを行うことが知られています。セイヨウオオマルハナバチは、特に頻繁に巣の乗っ取りを行い、同種同士だけではなく、在来のマルハナバチの仲間に対しても乗っ取りが行われることが飼育下で報告されています。
在来マルハナバチの繁殖撹乱
飼育下で、セイヨウオオマルハナバチのオスは在来種のメスと交尾を行うことが観察されています。また、野外で実際に、セイヨウオオマルハナバチのオスの精子が在来種のメスの受精嚢から見つかったことが報告されています。マルハナバチの仲間は、オスの子は単為生殖で産むため、セイヨウオオマルハナバチと交尾した場合であっても産むことは出来るのですが、メスの子(新女王)を産むことは出来ません。
雑種形成については、雑種ができたと報告されたものが一例ありますが、その後の実験では確認されておらず、受精した卵は胚発生が止まることも報告されています。雑種形成の真偽については、先の研究において雑種を生んだとされるメスがセイヨウオオマルハナバチとの交尾実験の前に、同種のオスと交尾する機会が本当になかったのかを検証する必要があると指摘されています。
在来のマルハナバチに寄生生物を広める可能性

マルハナバチポリプダニPhoto by Photo by Pavel Klimov, Bee Mite ID (idtools.org/id/mites/beemites)As per http://idtools.org/id/mites/beemites/about_copyright.php, this photo was released into the public domain by the USDA APHIS Identification Technology Program (ITP) in cooperation with the University of Michigan (UM)., Public domain, via Wikimedia Commons
輸入されたセイヨウオオマルハナバチから、マルハナバチポリプダニ Locustacarus buchneri というダニが見つかっており、本種が在来のマルハナバチにも寄生して影響を及ぼす可能性があります。また、ノゼマ病という病気を発症させる微胞子虫 Nosema bombi もセイヨウオオマルハナバチとともに持ち込まれたことが報告されており、それらが在来の生物に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。ヨーロッパや北米では野生のマルハナバチの減少が報告されおり、この原因がこれらのセイヨウオオマルハナバチによって持ち込まれた寄生生物ではないかとも考えられています。
在来植物への影響

盗蜜中のセイヨウオオマルハナバチ Photo by Alvesgaspar, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
セイヨウマルハナバチは、盗蜜(花に横から孔を開けて蜜だけを吸い、花粉を運ばない訪花)を行うことがあることが知られており、在来のハチに送粉を頼っている植物は、セイヨウオオマルハナバチに訪花されることにより繁殖を失敗するリスクが高まります。在来のハナバチがセイヨウオオマルハナバチに駆逐されると、ハナバチ相だけではなく、植物相にも大きな影響を与える恐れがあります。
【参考文献】
昌浩米田, 浩治土田 & 公一五箇 (2008) 商品マルハナバチの生態リスクと特定外来生物法. 日本応用動物昆虫学会誌, 52(2): 47–62.
鷲谷いずみ (1998) 保全生態学からみたセイヨウオオマルハナバチの侵入問題 (<特集>移入生物による生態系の攪乱とその対策). 日本生態学会誌, 48: 73–78.