きのこ的something

森の中で赤いきのこを見つけました。違いました。寄生植物でした。
ツチトリモチとは?
ツチトリモチ Balanophora japonica は、ビャクダン目ツチトリモチ科ツチトリモチ属の寄生植物です。クロキやハイノキなどのハイノキ属の植物に寄生します。きのこのような見た目ですが植物です。ツチトリモチ科の植物は、世界に13属42種ほど知られています。世界の熱帯から亜熱帯に分布します。日本では7種類が生育しますが、北海道には分布する種はありません。ツチトリモチは、日本固有種で本州の紀伊半島から口永良部島までの南西諸島に分布します。根茎から粘りのある物質を得られ、それを鳥黐(とりもち)として利用したことが名前の由来です。
奇抜な見た目

ツチトリモチ Photo by Noss
ツチトリモチは養分を他の植物から吸収する寄生植物であるため、光合成をする必要がありません。そのため、他の植物のように緑の葉っぱを地上に茂らせる必要がなく、赤い花序と鱗片状に退化した小さな葉を地上部に出すのみです。近縁種のヤクシマツチトリモチ Balanophora yakushimensis では、この花序がアマミノクロウサギやシロハラなどによって食べられ、アマクサツチトリモチ Balanophora subcupularis では、アリやゴキブリ、カマドウマなどによって食べられたことが確認されています。
オスがいない
ツチトリモチは雄株と雌株が別の株である雌雄異株の植物です。しかし、これまで雄株は見つかっていません。つまり、せっかく花を地上部に出しているのですが、花粉を受け取ることなく雌花は単為生殖で種子を生産していると考えられています。そのため、花を地上部に出すこと自体にはそれほど意味がないのかもしれません。一方で、その後にできた種子を動物に食べて運んでもらうために、地上で種子を生産することには意味がある可能性はあります。

リュウキュウツチトリモチ
ちなみに、ツチトリモチ科の種がすべて雌雄異株でオスがいないというわけではなく、オスもメスも存在する雌雄異株の種や、雌雄同株の種、リュウキュウツチトリモチ Balanophora fungosa のように一つの株に雄花も雌花も咲かせたり、雄花だけを咲かせたりする雄性両全性異株のものもあります。
変わった寄生様式

ネナシカズラ
多くの寄生植物は、以前お話したネナシカズラのように宿主に自分の組織を侵入させて宿主から養分を吸い取りますが、ツチトリモチ科の植物は自分の塊茎の中に宿主の植物の根を伸ばさせて、そこから養分をもらいます。つまり、養分をあげる側がわざわざ貰う側に根っこを伸ばしているのです。どのようにしてこのような寄生様式を獲得したのか非常に興味深いです。
【参考文献】
長谷部光泰 2021.January 31. ツチトリモチ属 Balanophora. [Online] Available: https://www.nibb.ac.jp/plantdic/blog/?p=1120 [2025 Mar. 11].
Suetsugu, K., and Hashiwaki, H. 2023. A non‐photosynthetic plant provides the endangered Amami rabbit with vegetative tissues as a reward for seed dispersal. Ecology 104: e3972. doi:10.1002/ecy.3972.
Suetsugu, K., and Hashiwaki, H. 2025. Ants, camel crickets, and cockroaches as pollinators: The unsung heroes of a non‐photosynthetic plant. Ecology 106: e4464. doi:10.1002/ecy.4464.