2025年6月22日

磯の岩場で動く影

磯の石をひっくり返すと、石の表面を滑るように移動する不思議な生き物を見つけました。体は黒く非常に平べったいため、まるで影が動いているようです。

ヒラムシってどんな生き物?

ヒラムシとは、扁形動物門ヒラムシ目 Polycladida に属する生物の総称です。

扁形動物門には、ヒラムシのほかにプラナリア、コウガイビル、サナダムシなどが含まれます。名前のとおりこれらの生物はすべて平べったい形をしており、原始的な体の構造を持っています。扁形動物は、循環器官や呼吸器官を持たず、血管や鰓もありません。また、消化管は袋状で、口はありますが肛門がなく、未消化物は口から排出されます。ただし、サナダムシのような一部の寄生性の種では、消化管そのものが存在しないものもいます。

どうして平べったい体をしているの?

ヒラムシの一種 Photo by Betty Wills, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

扁形動物が平たい体をしているのは、酸素や栄養を効率よく体内に行き渡らせるためだと考えられます。酸素は体表から拡散によって取り込まれ、細胞に届けられます。拡散は濃度の高い場所から低い場所へ自然に移動する現象ですが、移動距離が長いと効率が著しく下がるため、体が薄いことで体表面から体内の細胞までの距離を短くし、効率的に酸素を供給しているのです。栄養についても、多くの扁形動物では口から取り入れたものが袋状の消化管を通じて拡散により全身に広がるため、平たい体が有利だと考えられます。ちなみに、昆虫も肺を持たず酸素は拡散で取り込まれますが、体内に張り巡らされた気管によって酸素を直接細胞の近くまで運ぶことができるため、体に厚みがあっても問題ない構造になっています。

ヒラムシはどこにいるの?

磯
ヒラムシが生息する磯

日本では、北海道から沖縄までの沿岸に広く生息し、磯の石の裏などで見つけることができます。海底の岩や砂の上を這っているものもよく観察されます。また、ヤドカリの殻の中やウニやシャコの体表に付着するものなど、他の無脊椎動物と共生するものも知られています

ヒラムシは何を食べるの?

ヒラムシは、腹面中央に口があります。

ヒラムシは肉食性で、二枚貝や巻き貝、ホヤやフジツボなど、動きが遅いか固着性の生き物を襲って食べます。体が平たいため、二枚貝などの隙間に入るのが得意なようです。また、岩などの隙間に隠れている小さなエビやカニなどの甲殻類を食べるものもいます。

毒をもつヒラムシもいる

ヒラムシに擬態している可能性が示唆されているアカククリの幼魚 Photo by Christian Gloor from Wakatobi Dive Resort, Indonesia, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ヒラムシの中には、オオツノヒラムシやツノヒラムシなどフグ毒であるテトロドトキシンを持つものがおり、獲物を捕食する際にその毒を使うことが知られています。また、卵塊に高濃度のフグ毒をもつものもおり、捕食者から卵を守るためにもフグ毒が使われています。魚やウミウシなどには、ヒラムシに非常によく似た見た目のものがおり、毒をもつヒラムシに擬態している可能性が示唆されています。

参考文献
千葉県立中央博物館分館 海の博物館. 2015. 海の生きもの観察ノート12『ヒラムシの博物』. Available at https://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/pickup/page-1521849666827/ .