2025年6月25日

食虫植物みたいな名前のムシトリナデシコ

ネバネバした粘液で虫を捕らえる植物といえば、モウセンゴケのような食虫植物がよく知られています。しかし、植物が昆虫を捕らえるのは、必ずしもそれを食べるためとは限りません。今回はそのひとつ、ムシトリナデシコのお話です。

ムシトリナデシコとは?

ムシトリナデシコ Silene armeria は、ナデシコ科マンテマ属の1年もしくは越年草です。原産地はヨーロッパで、日本には観賞用に江戸時代に持ち込まれました。国内では、北海道から九州の河川敷や海岸、荒れ地などの日当たりの良い乾いた環境に野生化しており、群生することもあります。

なぜムシトリなの?

ムシトリナデシコ
ムシトリナデシコの粘着部

ムシトリナデシコには、茎の上部に粘液を出す場所があります。この部分にしばしば虫がくっつきます。これがムシトリという名の由来です。粘液で虫を取るというと、モウセンゴケのような食虫植物が有名です。しかし、ムシトリナデシコは虫を消化して食べることはありません。

ムシトリナデシコ
ムシトリナデシコの粘着部に捕らえられた虫

日本に自生するモチツツジも萼や葉がネバネバしていて、多くの虫がそこに捕らえられますが、こちらも消化することはありません。

モチツツジ
モチツツジの萼にくっついた昆虫

ムシトリナデシコはなぜ虫を取る?

ムシトリナデシコ

花粉を運んだり、種子を散布してくれる植物にとって有益な虫がいる一方で、葉を食べたり、盗蜜(花粉を運ばずに花蜜を食べる行動)するだけの植物にとって害となる虫もいます。

先述の通り、ムシトリナデシコは茎の上部に茎を一周するように粘着物質を出している部分があります。この部位の粘着物質は、主に茎を登ってくる昆虫に対して効果を発揮すると考えられます。よじ登って花にやってくる虫の代表はアリです。アリはいろいろな花に訪れるのですが、一般的に送粉にはあまり寄与せず、寧ろ盗蜜などにより植物の繁殖に負の影響を与えることが多いです。ムシトリナデシコは、アリの訪花を防ぎつつ、花粉を運んでくれる昆虫には比較的安全に訪花してもらえるようこのような構造になっているのではないかと考えられます(もっとも上の写真のように飛翔性の送粉者になり得る昆虫が捕えられてしまうこともありますが)。