モズのふしぎな習性-はやにえ-
モズはバッタやカエルなどの小動物を好む肉食性の小鳥です。彼らは一風変わった習性をもっています。捕まえた獲物を木々の枝先や有刺鉄線などに突き刺して、長期間そのまま放置することがあるのです。
串刺しになった獲物のことを「はやにえ」といいます。モズがはやにえを作る理由はよく分かっていませんでした。しかし、近年の学術研究によって、その謎が少しずつ解明されつつあります。
今回は、はやにえ研究の最前線をみなさんにご紹介したいと思います。
モズの作ったカメムシ類(photo by ぽこりたけ)、トカゲ類(photo by かずはるくん)、カエル類(photo by 直帰)のはやにえ
モズとは?
モズは田んぼや畑の広がる里山などでよく見られる小鳥です。全長は20cmほど。体と同じくらい長い尾羽と、鋭いかぎ状のくちばしが特徴的です。オスは目の周りに黒い帯状の羽があり、メスは淡い茶色をしています。
モズのオス(photo by チュウタロウ)とメス(photo by うあ🐣)
モズの一年間とはやにえを作る時期
モズは西日本だと夏から秋(8~9月)に渡ってきて、各自なわばりを作り始めます。そのなわばりで冬を越したのち、早春(2月ごろ)から繁殖をスタートします。
はやにえを作る時期はおもに10~12月です。気温もまだまだ暖かく、餌となる生物をたくさん捕えやすい時期です。毎月約40個のはやにえをせっせと作り、計120個ものはやにえを貯えることが知られています。
はやにえの役割その1:冬の保存食
はやにえを作ろうとするモズのオス(photo by さたに)
モズがはやにえを作る理由として、根強い人気があるのが「冬の保存食説」です。はやにえは餌の少ない冬に備えた食料であるという主張です。
貯えたはやにえを「いつ食べるか」を詳細に調べた研究によると、気温が低くなるほどはやにえを食べる量が増えることや、はやにえを食べる量が一年でもっとも寒い時期(おおむね1月)に一気に増えることが判明しています。
このことから、モズは餌の少ない冬に備えて、はやにえを貯えていたのだと考えられています。
はやにえの役割その2:恋を成就させるための栄養食
モズのオスのはやにえには、冬の保存食以外の役割もあることが明らかになっています。
モズのオスは繁殖期になると、歌をつかってメスへプロポーズします。なんともロマンチックですね。栄養状態が良く元気なオスほど、魅力的に歌うことができるそうなのですが、なんとモズのオスははやにえをパクパク食べることで、栄養状態をブーストして、歌の魅力を一気に引き上げることができるというのです!
このことは実験でも確かめられていて、Aグループ:はやにえを人為的に取り除いたオスや、Bグループ:はやにえの3倍量相当の餌を与えたオスを用意して、その後の歌の上手さやプロポーズの成功率をモニタリングしたのです。すると、Aグループは歌が下手になり、プロポーズがのきなみ失敗したのに対して、Bグループは歌が抜群にうまくなり、メスにモテモテになったとのこと。
つまり、はやにえは恋を成就させるための栄養食 でもあるということなんですね。
野外ではやにえを見つけとしても、持ち帰らないようにしましょう。モズにとって、はやにえは冬を生きのびるためにも、異性を獲得するためにも重要な食料ですので。
監修 上田 恵介, 編集 日本野鳥の会. (2021). 日本野鳥の会のとっておきの野鳥の授業. 山と渓谷社.
Nishida, Y., & Takagi, M. (2018). Song performance is a condition‐dependent dynamic trait honestly indicating the quality of paternal care in the bull‐headed shrike. Journal of Avian Biology, 49(10), e01794.
Nishida, Y., & Takagi, M. (2019). Male bull-headed shrikes use food caches to improve their condition-dependent song performance and pairing success. Animal Behaviour, 152, 29-37.