やっぱり侵入してしまったセイヨウオオマルハナバチ

2024年10月25日 生物
セイヨウオオマルハナバチ

日本に意図的に持ち込まれて生態系に大きな影響を与えている生物として沖縄のマングースは有名ですが、導入当初から生態系に影響を及ぼす危険性が予見されていたにも関わらず、日本に輸入され続けて実際に野生化し、現在も分布域を拡大し続けている生物がいます。

セイヨウオオマルハナバチとは?

セイヨウオオマルハナバチ(Photo by ラブ子)

セイヨウオオマルハナバチ(Photo by ラブ子)

セイヨウオオマルハナバチ Bombus terrestris は、ミツバチ科マルハナバチ属のハナバチです。原産地はヨーロッパです。ネズミの巣穴を利用して、地中に巣を作ります。一つのコロニーに平均800〜1000匹の働き蜂がおり、60〜180頭の新女王蜂を生産します。新女王の数は、在来マルハナバチの4倍ほどであるといわれています。日本には、1991年に静岡農業試験場で試験導入され、1992年にオランダ、ベルギーからハウストマトの受粉用に本格的に輸入されるようになりました。1996年に北海道で初めて野生の巣が見つかり、現在では北海道のほぼ全域に分布が広がっています。根室半島で2009年に行われた研究では、セイヨウオオマルハナバチの多い地域でノサップマルハナバチ Bombus florilegus やエゾオオマルハナバチ Bombus hypocrita subsp. sapporoensis の減少が示唆されています。1993年には、研究者によるセイヨウオオマルハナバチの輸入反対運動が起こり、その後、日本の侵略的外来種ワースト100にも選ばれましたが、外来生物法によって特定外来生物に指定されのは2006年のこと、ようやく飼育、保管、運搬等に規制がかかるようになりました。

どうしてセイヨウオオマルハナバチは北海道にのみ定着できたのか?

セイヨウオオマルハナバチは、1992年以降日本各地に輸入されましたが、定着したのは北海道のみです。セイヨウオオマルハナバチの巣を作っているロウ物質は、長時間32℃以上にさらされると溶けてしまいます。このため、夏場でも32℃以上にならない環境が存在する地域でしか営巣をすることができず、気温の低い地域に定着は限られます。

海外でも広がるセイヨウオオマルハナバチ

セイヨウオオマルハナバチ

セイヨウオオマルハナバチは、海外でも北米、オセアニア、イスラエルに移入分布しています。イスラエルでは、セイヨウオオマルハナバチが蜜資源を独占し、セイヨウミツバチを含めた在来ハナバチの生態系に大きな影響を与えたことが報告されています。また、現在カナダ、アメリカでは、セイヨウオオマルハナバチの輸入が禁止されています。これらのすでに野生化した地域での侵入状況より、餌資源、営巣場所を獲得するための競争において、セイヨウオオマルハナバチは非常に競争力が高く、侵入した地域で在来種を競争排除することが強く危惧される生物であると考えられています。

次回は、セイヨウオオマルハナバチが侵入した地域では、生態系にどのような影響が起こるのかについてのお話したいと思います。

【参考文献】
純一高橋, 和久山崎, 雅宏光畑, Martin SJ, 正人小野 & 宜高椿 (2010) 根室半島のマルハナバチ相:特に北海道の希少種ノサップマルハナバ チに対する外来種セイヨウオオマルハナバチの影響について. 保全生態学研究, 15: 101–110.

鷲谷いずみ (1998) 保全生態学からみたセイヨウオオマルハナバチの侵入問題 (<特集>移入生物による生態系の攪乱とその対策). 日本生態学会誌, 48: 73–78.

昌浩米田, 浩治土田 & 公一五箇 (2008) 商品マルハナバチの生態リスクと特定外来生物法. 日本応用動物昆虫学会誌, 52(2): 47–62.

国立環境研究所 新入生物データベース. セイヨウオオマルハナバチ. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60080.html