みなさんは、生物多様性とは何ですかと聞かれたらなんと答えますか?おそらく、多くの人は、生物種の多様性と答えるのではないでしょうか。それは間違いではないのですが、生物多様性の一部にすぎません。生物多様性を大別すると、生態系の多様性、種の多様性、そして遺伝子の多様性の3つにわけられます。以下で、それぞれの多様性について、お話しします。
生態系の多様性
生態系というのは、個々の種によって構成される生物群集と、それを取り巻く環境のことです。それぞれの森林にはそれぞれの森林の生態系、それぞれの川にはそれぞれの川の生態系、それぞれの海にはそれぞれの海の生態系があります。どの範囲で、ひとつの系とみなすかについては、扱う地域や生物種によって異なり、厳密な決まりはありません。
生態系の多様性とは何でしょう。例えば、スギナ(その胞子茎はおなじみ、つくし)とタンポポとホトケノザが生育する環境を例にとって考えてみましょう。
生態系A:スギナだけで構成されている系
生態系B:タンポポとホトケノザで構成されている系
生態系C:スギナとタンポポとホトケノザで構成されている系
この3つの系のうち、不要なものはどれでしょう。生態系Cを守れば、スギナもタンポポもホトケノザも守られるのだから、AとBは不要である、、、ということはありません。種の多様性の観点からは、3種とも含まれているCの系は多様性が高いとみなすことが出来ます。しかし、系の多様性の観点からは、3種とも生育している系が重要であるのと同程度に、1種のみや、2種のみの系も重要です。スギナのみ生えているからこそ、生息する虫や菌だっているかもしれないし、スギナがないからこそ生息できる生き物だっているかもしれません。生き物たちの相互作用は、我々が容易に予測できない複雑なものなのです。
種の多様性
こちらについては、比較的理解しやすいです。生物群集に多くの種が生息しているほど、その地域の種の多様性の評価は大きくなります。ただ、その種の多様性の計り方については、単純に種数で評価するだけでなく、個体数を加味した多様性の評価のやり方もあり、概念としては分かり易いですが、実際の評価は意外と難しいのです。この話については、機会があれば本ブログで取り上げたいと思います。
遺伝子の多様性
同一の種であっても、地域が異なれば、それらの個体群間で遺伝的に異なる特徴を有している場合が多いです。京都のカブトムシと東京のカブトムシ、種は同じであっても、それぞれの地域に適応した形質(見た目のみならず、低温耐性や、飛翔能力などの特性など)を有してると考えられます。この遺伝的な違いこそが、遺伝子の多様性です。人為的な動植物のみだりな移動は、この遺伝子の多様性を損ねることにつながります。遺伝子の多様性保護の観点から、捕まえたカブトムシの飼育が飽きたからと言って、捕まえた場所とは異なる地域に逃がすのは、良いことではありません。逃がすのであれば、元の場所にお願いします。
生物多様性とひとことで言っても、3つの多様性があることを分かっていただけたでしょうか。ちなみに、生物多様性Biodiversityという言葉、この言葉は、1985年にアメリカ合衆国研究協議会で、Biological diversityから造られた言葉です。ちょっと古い辞書には載っていない、意外と新しい言葉なのです。