日の目を見るのは17年後!?気長に生きるセミのお話

2018年8月9日 ALL生物
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暑い日を余計に暑苦しくしてくれるセミの声ですが、いなくなれば、それはそれで寂しいでしょう。今回は、十数年に一度しか声を聞くことができないセミのお話です。

13年ゼミ、17年ゼミ

13年ゼミ、17年ゼミは、幼虫から成虫になるのに、それぞれ12年、16年かかるため、卵を産み付けられてから13年目、17年目にやっと地上に出てきます。昆虫としては非常に長い寿命を持つこれらのセミは、きっちり13年、もしくは17年後に姿を現すため周期ゼミと呼ばれ、北アメリカに生息しています。13年ゼミと呼ばれるセミには4種、17年ゼミと呼ばれるセミには3種のセミが含まれており、それらの種が同時にまとまって現れます。17年ゼミについては、3種すべてが混ざっている地域と、1種のみの地域があります。

17年ゼミ

互いに非常に似た形態をもつ17年ゼミの3種
A. Magicicada septendecim, B. Magicicada cassini, C. Magicicada septendecula

13年ゼミ

13年ゼミの一種Magicicada neotredecimも見た目が17年ゼミにそっくり

同調して羽化する周期ゼミ

日本のセミも4,5年ほど地中で暮らしますが、周期ゼミの驚くべき習性は、単に土の中にいる期間が長いということだけではなく、みんな同調して成虫になるということです。つまり、13年もしくは17年に一度だけ、そのセミを見ることができるのです。しかも互いに集まる性質があるらしく、発生地域の全域に現れるのではなく、一部の場所に密集して出現します。そのため、日本のようにあちらこちらでセミの鳴き声が聞こえるという状況にはならず、密集地域でのみ、非常に大音量の合唱になるようです。また、厳格な13年、17年周期はあるものの、その発生年は地域ごとに異なっており、アメリカ全土で発生年が同調するわけではないようです。

どうして13年、17年おきにしか出てこないのか。

-同調することに意味があるという説-
同調して大量に発生することによって、捕食者に襲われる確率が減ります。魚や鳥、草食動物が群れを作る理由と同じです。捕食者も獲物が大量にあると食べきれないため、群れの中の構成員にとっては、自分が狙われる可能性が減ります。周期ゼミは、ボトボト地面に落ちて歩いているのが観察されており、飛翔能力はそれほど高くないようです。また、天敵に対しても逃避行動をあまり取らないようです。このことは、大量発生して密集するため、1個体あたりの捕食圧が非常に低く、逃避行動を発達させる必要が無かったためと考えることもできます。

17年ゼミ

Magicicada septendecim & Magicicada cassini photographed by James St. John

飛行能力が低いとされる17年ゼミ photographed by Dan Keck

-なぜ、13年と17年?-
同調する必要があるとしても、どうして、そんな長期間地面に潜り続ける必要があるのかについては、誰もが気になるところです。13、17が素数であることに着目した仮説があります。氷河時代に、厳しい環境で交配相手を見つけるために、互いに出てくる時期を同調させたセミの集団が多々あり、それらの中で、他の周期を持ったセミの出現と重なりにくく、交雑個体を作ってしまうリスクが小さいセミ、つまりできるだけ大きい素数の周期で出てくるセミが生き残ったという説です。この説は、一つのストーリーとしては面白いですが、腑に落ちない点があります。先述の通り、13年ゼミには4種、17年ゼミには3種含まれており、それらが同調して出現します。繁殖干渉を避けるためという解釈はいささか強引です。また、この説によると、氷河期の寒い時期に適応するために獲得した長期の幼虫期間を気温が高くなった現在でも維持したままである、つまり、17年ゼミ、13年ゼミは現在の暖かい環境には特に適応せずに昔の習性を維持しつづけているということになります。幼虫期間を増やせば増やすほど、死亡リスクは高くなり、子孫が受け継がれる可能性が低くなるのですから、現在でもその死亡リスクを上回る何らかの利点があるからこそ13年、もしくは17年土の中に居続けることが維持され続けてきたのではないかと考える人も少なくないのではないかと思います。この13, 17年周期には、まだまだ、たくさんの面白い仮説が作れそうです。

17年ゼミ羽化

同調させることの危険性

出現するタイミングを合わせるのは良いことばかりではありません。13年もしくは17年に一度、しかも数週間のチャンスしかないのです。もし、そのタイミングで、その地域に干ばつや洪水などがあれば、その個体群は著しく影響を受けることが予想されます。同調させるにしても、完璧に同調させるのではなく、いくらかはバラバラに出てきたり、ある気候を合図にして出てくる方が安全といえます。日本のセミも、同種であっても地中にいる期間は1,2年異なることがあるようです。現に近年絶滅してしまった地域個体群もあるようです。どうしてそこまでリスクを負って、厳密な13,17年を守るのか、やはり、この謎はもう少し解くのに時間がかかりそうです。