小笠原諸島の自然生態系を脅かすグリーンアノールとセイヨウミツバチ

2019年8月24日 ALL生物
Photoed by Jefferson Heard [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons

多くの人にとって、グリーンアノールは、あまり馴染みのない生き物かもしれません。グリーンアノールは、イグアナ科の生物で、少し大きめの緑色のトカゲです。アメリカから持ち込まれたこの生物は、沖縄や小笠原諸島で野生化しています。また、前回の記事でも書きましたが、セイヨウミツバチも小笠原諸島で野生化しました。本土では、それほど問題にならないセイヨウミツバチの存在も小笠原諸島では、大きな問題となっています。今回は、小笠原諸島に侵入した外来種の影響についてお話します。

 

グリーンアノールとは?

グリーンアノールは、イグアナ科アノールトカゲ属の生物で、アメリカ南東部、メキシコ、西インド諸島などに生息しています。小笠原諸島には、1960年代にペットとして持ち込まれたものが野生化したと言われています。現在では、1ヘクタールに1000匹の高頻度で生息していると推定されています。沖縄では、1989年に初めて確認されました。

 

グリーンアノール、セイヨウミツバチが小笠原の生態系に与える被害

聟島

聟島 Photoed by Own work [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons


小笠原諸島では、グリーンアノール、セイヨウミツバチが両方生息する父島、セイヨウミツバチは生息するが、グリーンアノールの駆除が行われ、ほとんどグリーンアノールが見られなくなった兄島、グリーンアノール、セイヨウミツバチどちらも生息していない聟島で、花にやってくる昆虫層の調査が行われました(辻村ほか 2015)。その結果、父島、兄島では、日中に観察される昆虫の数が、グリーンアノールもセイヨウミツバチもいない聟島に比べて10分の1ほどであることがわかりました。特に父島では、日中に在来の昆虫がほとんど発見されませんでした。このことは、グリーンアノールが昼行性であるため、昼に動く昆虫がほとんど食べられてしまったためと考えられています。また、父島、兄島に生息するセイヨウミツバチが、在来の昆虫の蜜資源を横取りしてしまったため、在来の昆虫が聟島に比べて大きく減ってしまった可能性があると推察されています。一方で、グリーンアノールやセイヨウミツバチが侵入していない聟島では、発見された昆虫数は多かったものの、その種数は少ないという結果になりました。このことは、1960年代に増殖したヤギが、植生に大きな影響を与え、植物の種数が著しく減ったことによるものではないかと考えられています。自然環境は、過去も含めて様々の種の影響を受けるため、一つの種の影響の評価は非常に難しいですが、そのことを加味しても、グリーンアノールとセイヨウミツバチは小笠原諸島の生態系に非常に大きな影響を与えていると考察されています。

 

花にやって来る昆虫が少なくなることの影響

訪花昆虫の多様性の減少は、それそのものも問題ですが、それによってもっと大きな問題が起こることも想定されます。訪花昆虫は、植物の花粉を運び、植物が結実して、世代交代をすることに貢献しています。訪花昆虫がいなくなると、昆虫に受粉を頼っていた植物は、その環境で生存することが困難になり、島の環境が激変する可能性があります。

 

セイヨウミツバチを駆除することの是非

セイヨウミツバチ

セイヨウミツバチ

父島や兄島では、在来種の減少によって、現在多くの植物の送粉は、セイヨウミツバチによって行われていると考えられています。外来種であるセイヨウミツバチが、小笠原の生態系維持に貢献している可能性があるという皮肉な状況です。しかし、一部の小笠原固有の植物は、セイヨウミツバチによって送粉がされないため、結実率が大幅に減少しているようです。とにかく、グリーンアノールは駆除するのが先決だとされていますが、セイヨウミツバチの駆除については、その影響を見極めた上で慎重に行う必要が指摘されています。外来生物の影響を強く受けて改変されてしまった地域では、自然環境を管理するのが如何に難しいのかということを思い知らされる事例といえます。

 

参考文献:

辻村美鶴, 清水 晃, 苅部治紀, 大林 隆司, 村上勇樹, 村上哲 明, 加藤 英寿(2015). 外来種による小笠原在来植物の送粉系撹乱. 小笠原研究, 42, 23-64.