ツクシって一体何者?

2021年4月8日 ALL生物

ツクシは誰もがよく知る春の植物ですが、植物なのに緑色をしていませんし、てっぺんの部位は花というわけでもなさそうです。今回は、よく考えてみればへんてこな植物、ツクシのお話です。

ツクシとは?

ツクシ

ツクシ

「ツクシ」とは植物名ではなく、スギナ Equisetum arvense の胞子茎を指す言葉です。なお、ツクシとの対比で、スギナ Equisetum arvense の栄養茎も「スギナ」と呼びます。(以下、植物種名としての「スギナ」は「スギナ Equisetum arvense 」と表現します)

スギナ Equisetum arvense は、シダ植物門(大葉シダ植物)トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物です。私達がよく野外で見かけるサクラやタンポポ、イチョウなどの植物は、被子植物門もしくは裸子植物門に分類される種子植物であり、種子植物は全植物種の8割を占めます。シダ植物門に分類される本種は、種子植物よりもワラビやゼンマイなどに近い仲間です。

シダ植物とは?

ウラジロ

ウラジロ

シダ植物とは、種子を作らず胞子によって繁殖し、胞子体と配偶体が独立している維管束植物の総称であり、分子系統解析から側系統であることがわかっています。

胞子体と配偶体について私達が最も馴染みのある種子植物で説明すると、胞子体とは植物体(幹や枝、葉っぱ、花弁など)のことを指し、配偶体は胚珠内の胚嚢(卵細胞を含む組織)や花粉を指します。種子植物では、配偶体である胚嚢は植物体から離れることなく花粉を受精して種子が出来ます。つまり、胞子体と配偶体は独立していません。一方、シダ植物は胞子を作ってばら撒き、その胞子から発芽した配偶体が独立して成長します。すなわち、胞子体と配偶体は独立しています。

スギナ Equisetum arvense の生活史

ツクシ

スギナ Equisetum arvense は3月中旬に胞子茎であるツクシを出し、胞子を飛ばします。ツクシは葉緑体を持っていないため光合成は行わず、胞子を飛ばす役目が終わるとすぐに枯れます。ツクシが見られる期間は2,3週間ほどです。

スギナ

スギナ

4月初め頃には、ツクシと同じ地下茎から栄養茎であるスギナが伸び地上部に現れます。スギナは葉緑体を持っており、光合成を行います。12月頃にスギナは枯れます。真冬は地上部には何もなくなりますが、地下茎は冬でも生きており、早春に出すツクシの準備をします。スギナ Equisetum arvense は、地下茎を伸ばすことによって生育範囲を広げることができます。

オオイヌノフグリとつくし

オオイヌノフグリとつくし

一方、春にツクシ(胞子茎)から飛ばした胞子は、発芽して前葉体(配偶体)になります。ツクシの場合は、オスの前葉体とメスの前葉体が発生し、それぞれ精子と卵子を作ります。精子が水中を泳いで卵子にたどり着くと、受精卵が発生して新しいスギナが生まれます。精子が卵子と出会うには、精子が水中を泳いで移動する必要があるため、スギナが新天地で受精卵から発生するには、水のある場所が必要です。このようにして、ツクシは種子を作るかわりに胞子を作ることによって有性生殖を行い、新しい個体を作ります。