春にしか姿を見せない妖精のお話

2022年3月12日 ALL生物

3月に入り、春めいてまいりました。いろんないきものが活動を始め、夏に向けてどんどん大きくなったり数を増やしたりする中、カタクリやショウジョウバカマなどの植物は3月に花を咲かせ、夏前には枯れてしまいます。今回は夏に休眠に入る植物の生存戦略についてのお話です。

スプリング・エフェメラル(春の妖精)とは?

ショウジョウバカマ

ショウジョウバカマ

Ephemeralとは、「はかない」、「つかの間の」という意味です。春先に花を咲かせ、夏前には枯れてしまう植物をスプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)といいます。また、日本では「春の妖精」と呼ばれることがあります。スプリング・エフェメラルには、カタクリ、セツブンソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、フクジュソウ、エゾエンゴサク、ショウジョウバカマなどがあります。また、地中海沿岸が原産のムスカリや東ヨーロッパ原産のスノードロップもも、スプリング・エフェメラルです。

スプリング・エフェメラル、カタクリの生活史

カタクリ

カタクリ Photo by Koda6029, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

日本でスプリング・エフェメラルの代表いえばカタクリです。カタクリはユリ科カタクリ属の植物で、落葉樹林の林床に群生し、3月に花を咲かせて6月に地上部がすべて枯れ、翌春まで休眠状態になります。自家受粉をせず、クマバチやマルハナバチなどの昆虫によって送粉される虫媒花です。地下には鱗茎を持っており、毎年少しずつ成長して、種子が発芽してから8年ほどかけてやっと花を咲かせます。地上部が存在する期間が2ヶ月ほどしかなく、その短い期間しか光合成ができないため、他の植物に比べて花を咲かせるのに時間がかかると考えられます。寿命も長く、40年から50年ほどあると考えられています。

どうしてスプリング・エフェメラルは夏前に枯れるのか。

スノードロップ

スノードロップ

夏は日照時間が長く、日射量も多いため、様々な植物が葉を展開し、よく成長する時期です。この時期に葉を枯らしてしまうため、カタクリの成長はとても遅いのです。しかし、スプリング・エフェメラルにとって、夏に葉を枯らすことこそが重要なのです。スプリング・エフェメラルが生育する環境は落葉樹林の林床です。落葉樹は冬には葉を落とすため、春の初め頃はまだ葉が展開していません。そのため、早春、落葉樹林では林床にも光が届きます。この日光を利用するのがスプリング・エフェメラルです。夏になると落葉樹が葉を広げます。林床は樹木が利用した残りの光しか届かず、薄暗い環境となってしまいます。そのため、基本的には弱い光でも生き延びられるような戦略(耐陰性)を持っている植物しか生育することができません。スプリング・エフェメラルは落葉樹が展葉する前の短い期間だけ光合成を行って養分を蓄え、林床が暗くなる頃には地上部を枯らして休眠状態に入ることによって、夏に十分な光が当たらない環境でも生きのびることができます。つまり、スプリング・エフェメラルは、成長期間(成長の速さ)を犠牲にして、耐陰性を持たずして林床で生き延びる術を手に入れた植物と言えます。