街中でよく見る肌色っぽいピンク色の花

2022年4月17日 ALL生物

暖かくなってくると、肌色っぽいピンク色の独特な色合いの花を街角で見かけるようになります。ナガミヒナゲシという植物です。アスファルトの割れ目からでも生える強い植物で、近年日本で急速に分布を拡大している外来種です。ナガミヒナゲシは、どうやって分布を広げているのでしょうか。

ナガミヒナゲシとは?

ナガミヒナゲシ

ナガミヒナゲシ Papaver dubium は、ケシ科ケシ属の一年草または越年草です。原産地は地中海沿岸です。日本には観賞用に持ち込まれ、1961年に東京都世田谷区で初めて野生化が確認されました。1994年前後には、輸入穀物の中に種子が混入していることが判明し、1990年代以降の日本全国への分布拡大は、この混入種子によるものと考えられています。日当たりの良い乾燥地を好み、畑地や空き地、路傍、荒地に生育します。南北アメリカ、北アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、西アジアと世界の広い地域に侵入しています。

ナガミヒナゲシ

果実の中には種子がびっしり詰まっています。

種子は非常に小さく、0.6×0.7mm、重さ0.13mgほどです。一つの実に平均1600個、一つの株が100個ほど実をつけることがあるため、1個体につき最大約15万粒の種子が作られるという計算になります。また、ナガミヒナゲシは根から他の植物の生育を阻害する物質を出している(アレロパシー)ことも明らかになっています。

ナガミヒナゲシの急速な分布拡大要因

植物は運動能力を持たいないため、分布を拡大するチャンスは、多くの植物の場合種子の時のみです。種子が親株からどれほど遠いところまで移動できるかが、その植物の分布拡大速度に強く影響します。ナガミヒナゲシはケシ属であり、アンパンの上に乗っているあのケシの実のような種子を作ります。つまり、タンポポのような綿毛やカエデのような羽は持たないため、パラパラと下に落ちるだけです。扇風機で風を送った実験により、強風下では3.5mほど移動することもあることが分かっていますが、日本での分布拡大はそれよりもずっと速い速度で起きています。ちなみに、種子に綿毛をもつセイヨウタンポポの分布拡大速度は、1.4 km/年、セイタカアワダチソウは、100〜150 m/年以上と推定されています。

セイヨウタンポポ

セイヨウタンポポ

実は、ナガミヒナゲシは日本国内での分布拡大にも人の力を借りているのです。ナガミヒナゲシの小さなケシ粒は、車のタイヤの溝に挟まって少なくとも50m以上移動しうることが実験より明らかになっており、急速な分布拡大の要因になっていると考えられています。アスファルトの隙間でも生育できることと、大量に小さな種子を作るナガミヒナゲシの生態は、舗装路が整備され、自動車の往来が多い日本での分布拡大に好都合であったと考えられます。

ナガミヒナゲシ

しかも、ナガミヒナゲシの種子の生存期間は長く、5年ほどもあります。そのため、生育に適した環境にたどり着くまで種の状態で長期間待つことができます。

温暖化と分布拡大

ナガミヒナゲシの種子は春季と秋季に発芽しますが、秋に発芽したものの生存率は冬期の最低気温が高い地域の方が高いことがわかっています。種子の発芽は25℃以上で促進されます。また、夏季の日平均気温が25℃以上の地域に生育地が多いことも明らかになっています。これらのことから、温暖化が進行すると日本国内のナガミヒナゲシの生息地が拡大する可能性があると考えられます。

【参考文献】

光司吉田, 慶晃亀山, 正之根本. 2009. 都市におけるナガミヒナゲシ(Papaver dubium)の生育地拡大要因. 東京農業大学農学集報 54:10–14.

義晴藤井. 2011. 春に気をつける外来植物:ながみひなげし. 農環研ニュース.

光司吉田, 正之根本, 貢次郎鈴木,  義晴藤井. 2008. 都市におけるナガミヒナゲシ(Papaver dubium)の生育地拡大. 雑草研究 53:134–137.