亀はおしりでも息をする

2024年2月23日 生物

クサガメやイシガメなど水中で生活するカメの仲間は、多くの場合、水中で越冬します。越冬中の数ヶ月もの間、彼らはどうやって酸素を得ているのでしょうか。

水中で越冬する水棲カメ

クサガメ

暖かい時期に主に水中で生活しているカメは、越冬中も水中で過ごすことが多いです。変温動物であるカメは、気温が下がると運動能力が著しく低下するため、天敵から逃げることがより難しくなります。水中の落ち葉の中は、冬季も活動している陸上の鳥や哺乳動物などの天敵が来ないため安全な場所と考えられます。また、陸上よりも水中のほうが寒暖差小さく、温度変化に伴うストレスは小さいです。しかし、冬眠しているといえども、全く代謝していないわけではないため呼吸をする必要があります。

普段は肺呼吸

クサガメ

クサガメ

水棲のカメであっても、爬虫類であるカメは主に肺呼吸を行っています。つまり、エラをもっている魚のように水中に溶けている酸素を使うのではなく、水面から鼻を出し、空気を吸うことによって生存に必要な大半の酸素を得ます。暖かい時期には、代謝量も多く、また体が自由に動くため、呼吸のために頻繁に水面に移動します。しかし、冬眠中はほとんど動かず、水面に顔を出すことはほぼありません。

越冬中の呼吸方法

水棲のカメの仲間には、お尻で呼吸できるものがいることが知られています。カメはヒトとは異なり、肛門と排尿口と生殖口が分かれておらず、総排出腔と呼ばれる穴を持ちます。この総排泄腔から水を取り入れることにより、水に含まれる酸素を得ることができます。しかし、総排泄腔には水を取り入れるポンプがあるわけではありません。受動的に総排泄腔に流れ込んだ水が粘膜にふれることによって、体内に酸素が取り込まれる仕組みです。また、食道の粘膜からも水中に溶け込んだ酸素を取り込むことが可能です。しかしそれらの呼吸方法は、肺呼吸に比べると微々たる量の酸素しか取り込むことができません。代謝量が著しく低下した冬眠中だからこそ、肺呼吸をほとんどしなくても生き延びることができるようです。

もっとも総排泄腔による呼吸を発達させたカメ

ハヤセガメ

ハヤセガメ Photo by CraigL, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

オーストラリアに生息するハヤセガメ Rheodytes leukops は、総排泄腔による呼吸を最も発達させたカメの一種であると考えられています。本種は、生存に必要な酸素の最大70%を総排泄腔から得ることができます。総排泄腔で呼吸することができる他の一般的な水棲のカメとは異なり、ハヤセガメは総排泄腔に水を出し入れするための筋肉も持っており、より効率よく酸素を取り込むことが可能です。ハヤセガメは冬眠のためにこのような能力を発達させたのではありません。本種は、流れの早い川に生息し、呼吸のために水面に出るたびに流れに抗って泳ぐ必要があります。そのためできる限り潜水時間を伸ばして水面に上がらなくていいようにするために水中で酸素を得る能力をより発達させたと考えられています。ちなみにハヤセガメは、潜水時間の中央値が約2時間で、最大潜水時間が10時間を越す個体もいることが報告されています。

[参考文献]

Gordos MA, Franklin CE & Limpus CJ (2004) Effect of water depth and water velocity upon the surfacing frequency of the bimodally respiring freshwater turtle, Rheodytes leukops. Journal of Experimental Biology, 207(17): 3099–3107.