マメ科植物は、根粒菌という土壌微生物と共生することにより、空気中の窒素を栄養として利用できます。今回は、マメ科植物がどのようにして根粒菌と共生し、利益を得ているのかについてお話したいと思います。
驚くべき根粒菌の能力
マメ科の植物の多くは、根粒菌と共生し、空気中の窒素をアンモニアに変える能力があります。この、空気中の窒素を動植物が利用できる形態に変換することを窒素固定と呼びます。窒素固定をおこなう植物はヤシャブシの仲間や、ヤマモモなども挙げられますが、代表はマメ科植物です。
窒素は空気中の体積割合で78%も含まれる元素ですが、植物は窒素を二酸化炭素のようにそのまま取り込んで利用することができません。植物は、アンモニア態窒素(アンモニウムイオンの形で存在している窒素)、もしくは硝酸態窒素(硝酸イオンの形で存在している窒素)の状態の窒素を取り込みます。
窒素は非常に安定した物質であり、工業的にアンモニアを生成する際に用いられるハーバーボッシュ法では、400-600℃、200-400気圧という高温高圧条件で窒素と水素を結合させるため、莫大なエネルギーを消費します。根粒菌が空気中の窒素からアンモニアを作るのは、驚くべき能力です。
根粒菌への多大な投資
根粒菌は、土壌中でマメ科植物が出すフラボノイドの一種を受け取ると、Nod因子と呼ばれるシグナル伝達分子を出し、植物に根粒を形成させます。このNod因子は根粒菌の種によって異なり、マメ科植物と根粒菌は種レベルで特異的に共生します。
根粒菌は、植物が作った根粒の中で、ニトロゲナーゼという酵素によって空気中の窒素をアンモニアに変えます。しかし、このニトロゲナーゼは酸素が多くある環境では失活してしまうため、植物は根粒の中にレグヘモグロビンと呼ばれる酸素を吸着する物質を出し、酸素濃度を低くして、ニトロゲナーゼが働ける環境を提供します。一方、根粒菌は呼吸のためには酸素が必要なため、レグヘモグロビンによって運搬された酸素を利用します。また、根粒菌は炭素源としてリンゴ酸を、窒素源としてアミノ酸を植物から供給してもらいます。ちなみに、植物は根粒菌用にわざわざショ糖を分解してリンゴ酸を作っています。また、植物側からのアミノ酸の供給をやめると、根粒菌は植物へのアンモニアの供給をやめることもわかっています。
土壌改良を行うマメ科植物
窒素固定ができない植物は、基本的には自身や他の植物が落とした葉や幹や根が微生物に分解されるときに出る硝酸態窒素を使うことしかできません。そのため、植物が生えていない環境では、他に川や高濃度に窒素化合物が含まれた大気といった供給源が無い限り、植物は窒素不足に陥り、生育が困難です。根粒菌と共生関係を結ぶことができたマメ科植物は、他の植物が生育できないような、窒素含有量が非常に少ない場所でも空気中から窒素を取り込めるため生育することが可能です。それだけではなく、マメ科植物が窒素固定をして成長し、葉を落としたり枯死したりすることによって、空気中の窒素がどんどん植物が使える形になって土壌に蓄積されることになります。
つまり、普通の植物が生息できないような荒れた土地にマメ科植物を植えると、マメ科植物自身が育つことができるだけでなく、他の植物も生育できるような土壌に改良することができるのです。植物の窒素固定は、多くの生物が生息できる豊かな土壌を作り出すのに重要であると言えます。