ポニーは、動物園や牧場のふれあい広場でよく見かける小さなウマです。現在の日本では愛玩用に飼われていることが多いですが、昔は力仕事をしていました。今回は、家畜として利用されるようになったウマについてのお話です。
家畜のウマの原種、ターパン
ターパンEquus ferus ferus は、ヨーロッパ南西部からアジア中部の北方までの広大な地域に生息していました。肩高は145cmほどしかない小型のウマです。現在はすでに絶滅しており、最後の野生のターパンはウクライナで1851年に狩猟され、動物園での飼育個体は1909年に死亡しました。外見は、モウコノウマ Equus ferus przewalskii を灰色にしたような姿だったようです。ちなみに、モウコノウマがノウマEquus ferusの唯一の野生亜種だと考えられていましたが、近年の研究により、モウコノウマも家畜のウマの子孫であることが示唆されています。
ヒトに利用されるようになったウマ
ウマは寒冷なステップ地帯に適応した動物であるため、ウシやヒツジよりも低温環境で生きられます。およそ1万年前まで続いた最終氷期には、寒冷な地域では、狩りで捕らえた馬の肉や乳がヒトにとって重要な食べ物となっていたと考えられています。その後、間氷期に入り、それまでウマを狩猟していた地域でも農耕やウシやヒツジの牧畜ができるようになりました。それに伴い、家畜化されたウマは、荷物の運搬や移動、ウシの追い立て、狩猟などにも利用されるようになったと推察されています。馬の家畜化で今の所最も古い例は、紀元前4470年から紀元前3530年までの間に栄えたウクライナのデレイフカという地域ですが、ウマの家畜化が始まった正確な場所はわかっていません。
現在ウマといえば、サラブレッドのような大型の品種を指すことが多いですが、原種のターパンは、現在のポニーほどの大きさしかありません。つまり、ウマは人による品種改良を経て大型化しました。
炭鉱で働いていたポニー
ポニーとは、肩の高さが約145cm以下の小型のウマのことを指し、特定の品種があるわけではありません。現在は動物園や牧場などで見かける可愛らしいウマという印象ですが、見かけによらず力が強く丈夫で、体重の2倍の重さのものを運べます。この小型であることと力強いという特性から、18世紀半ばからイギリスやオーストラリア、アメリカでは、地底の炭鉱の中で石炭を運ぶために利用されていました。炭鉱で働くポニーはピット(坑道)ポニーと呼ばれ、女性や子供が運ぶことができない長距離の運搬を担いました。仕事は1日8時間ほど、厩舎も地底にあり基本的には地下で生活をしていましたが、休みの日は地表に連れ出されていたようです。1913年頃にはイギリスでは7万頭ほどのピットポニーが働いていましたが、その後、徐々に機械が使われるようになるにつれピットポニーは減少しました。最後のピットポニーは、1999年まで働いていたとのことです。
[参考文献]
『人類と家畜の世界史』 Brian Fagan (著), 東郷 えりか (翻訳). 2016. 河出書房新社.