森を食べるシカ2 ~どうしてシカは増えたのか〜

2018年5月12日 ALL生物

前回の記事で、シカの個体数の増加により日本の森林で起こっている問題についてお話しました。今回は、ではなぜ、そもそもシカが増加したのかについてお話したいと思います。

先に結論を述べると、シカの増加の原因については、研究者の中でもはっきりした見解は出ていません。しかし、以下のような原因が議論されています。
・シカの捕食者であるオオカミが絶滅した。
・温暖化で冬期の子鹿の死亡率が下がった。
・人の狩猟圧が下がった。
・拡大造林による伐採と植林で、餌場となる明るい草原が一時的に増えた。
まず、オオカミ絶滅説は、もともとオオカミのいなかった屋久島などでもシカの増加が最近顕著になっていることから、あまり当てはまりそうにありません。温暖化で冬期の子鹿の死亡率が下がった説は、もともとそれほど寒くない地域でもシカが増加していることから、これもあまり妥当ではなさそうです。人の狩猟圧については、1970年代までは、大きな個体数減少の要因になりえていたかもしれませんが、森林の環境を改変するほどの爆発的なシカの増加を説明するのは難しいように思われます。拡大造林により草原の面積の増大により、餌場が増え、個体数を増やしたシカが、森林の中で次第に枯渇してくる餌資源に対応して比較的なんでも食べられるようになり、その個体群が広がり始めたということは考えられますが、これも推測の域を出ません。
奈良公園のシカ
シカの増加の原因については、判明していませんが、やはり、人間の活動が関わっていることは、ほぼ間違いないでしょう。森林生態系には、人知を越えたバランスがあり、そのバランスを人間が壊してしまうと想定も出来ない事態になるということをまさに思い知らされます。

木陰で休む子鹿
シカの増加によるこの林床植生の著しい衰退が、人の活動に起因しているという明確な証拠が無いために、これまで環境問題としてあまり取り上げられてこなかったのかもしれませんが、日本の森林が存続の危機に瀕しているということには違いありません。人為活動の影響で起こった現象である以上、これまで経験したことのない急激な環境の変化に多くの生物が対応できないことが予想されるため、シカの増加に対してなんらかの対処をするべきであることは間違いないでしょう。現在、シカによる森林の生態系の変化に危機感をもった人たちによって、森林を部分的に囲い、シカの採食にあわないような場所を作る活動が行われたり、シカの捕獲が強化されたりするようになってきました。最近、ジビエもブームになっています。ただ動物を駆除するとなると、抵抗を感じる方が多いことと思いますが、シカ肉を食材として利用するのであれば、大きな抵抗を感じない方が多いのではないのでしょうか。これもひとつの森林保全活動です。シカを美味しく頂いて、命を無駄にすることなく森林を保全できたら、それに越したことはありません。