秋も深まり、植物はどんどん葉を落とす時期になりました。
日本人の多くは、冬になれば、植物は紅葉して葉を落とすものだと当たり前のように感じているかもしれません。
しかし、熱帯に住んでいる人にとっては、一斉に植物の葉の色が変わって、全ての葉が落ちるというのは、驚くべき現象のようで、紅葉、落葉の話をすると驚かれることがあります。常夏だから、冬がなくて紅葉がないのだなと、なんとなくそう思った人もいるかもしれません。しかし、北方の常緑樹林を忘れてはいけません。常緑樹は、雪が降っても、緑色の葉を付けたままです。日本でにも、冬になっても葉を落とさない常緑の樹木は多く生育しています。同じ気候に生育していても、葉を落とす植物と、落とさない植物があるのです。毎年当たり前のように見てきた紅葉と落葉について、すこし興味が湧いてきましたでしょうか。
植物が葉を落とすという現象
よく、ドラマなどで、あの葉が落ちたら・・・なんて、シーンがありますが、1年以上生きる植物にとって
葉が枯れて落ちた = 葉っぱが死んだ
というのは、少し違います。
正確には、
葉が枯れて落ちた = 葉を捨てた
という感じです。
何が違うのかというと、植物にとって、能動的な作業かどうかということです。
植物は、葉にあった栄養分を枝や幹に移動させ(転流)、葉への栄養分の供給を停止し、離脱(離層の形成)させます。
生物にとって、死は、徹底的に抗うものですが、落葉は、きっちり準備して行われる生きるための営みです。
植物が葉を落とすワケ
一言でいうと、植物が葉を落とすのは、冬をやり過ごすためです。動物が冬眠するのと同じような状態です。
葉は、太陽の光を受けて栄養を作り出すための器官です。しかし、冬の間は、日照時間が短く、葉を付けていても十分に太陽光を得ることができません。しかし、葉を維持するために代謝は行わなければなりません。その上に、雪が降ると、葉の上に積もった雪の重みで、枝が折れやすくなります。そのため、葉は、冬の間、無用の長物となってしまいます。落葉する植物は冬の間は、生産することを諦め、春に向けてできるだけ傷を作らないようにしてやり過ごそうとしているのです。
寒くても葉を落とさない植物がいるワケ
葉を落としてしまうことには、デメリットがあります。
それは、せっかく作った葉を捨てて、春にまた新しいものを作らないといけないということです。
1年ごとに新しく葉を作るコストと、冬に葉をつけたまま耐えるコスト、植物はこの2つを天秤にかけて、落葉するかどうかを決めています。北方にある常緑樹の多くは針葉樹です。針葉樹は、広葉樹と比べて、一般的にとてもゆっくり成長します。しかし、一度作ったものは長持ちするように、頑丈な物を作ります。例えば、私たちの身近にある針葉樹のヒノキやスギ、マツの葉っぱは、広葉樹の葉っぱと比べ非常に硬く物理的にも壊れにくくなっています。
また、高緯度で越冬する植物は、低温や凍結に対しても、細胞膜が壊れないように低温でも固まりにくい不飽和脂肪酸を細胞膜に多く持ったり、細胞内の水分を細胞外にゆっくり放出して、凝固点降下を大きくし、細胞内は凍りつかないようにするといった生理機構を持っています。これらのコストが、春に毎回新しく葉を生産するコストよりも小さければ、冬でも落葉しないという選択をします。
常緑林か落葉林かを決めるモノ
それでは、どうして、北方、熱帯などの高緯度、低緯度地域では、一斉に落葉しない植物が多く、日本を含む中緯度地域では一斉に落葉する植物が多いのでしょうか。
まず、熱帯地域では、1年中太陽光のエネルギーを得ることができ、葉が十分な太陽光を受けられず光合成できない期間がないからです。しかし、十分な太陽光が受けられても、強く乾燥する時期がある場所では、やはり光合成が行えないため、一斉に落葉します。
次に、北方については、葉を出して、栄養を作り、花を咲かせ、種を作って、冬の間耐えられるだけの栄養を貯蔵するということが、短い夏の間に終えられないためと考えられます。毎年、毎年せっかく作ったものを捨ててしまい、一から作り直す余裕がないのです。一方、そんな過酷な環境であるため、光を巡って競争する他の植物種は少ないと考えられます。そのため、早く大きくなって、光を獲得しようとする必要があまりありません。ゆっくり少しずつ、でも作ったものはできるだけ長く使う。それが北方林の針葉樹の戦略といえます。
一方、落葉樹林のある中緯度地域は、冬は、光合成できる十分な太陽光エネルギーが得られませんが、夏には、新しく葉を作り、種子を残すだけの十分な太陽光エネルギーが得られるため、葉を維持するコストよりも、新たに作るコストの方が小さくなると考えられます。
太陽光を獲得できる時間の長さが、常緑樹か落葉樹かを決定する大きな要素だといえます。
紅葉、落葉は、多くの日本人にとって、寂しさや物悲しさを感じさせる現象ですが、植物にとっては、生存戦略として獲得した営みなのです。
いきものコレクションアプリ「Biome」
日本国内の動植物 (約10万種) を収録するいきものコレクションアプリ「Biome」は、いきものの写真を撮って自分だけのいきものコレクションを作ったり、他のみんなが集めた生きものを楽しむことができるアプリです。
知らないいきものと出会っても大丈夫!最新の生物名前判定AIでいきものの名前がその場ですぐにわかります。
いきものに詳しくなれる『いきもの図鑑』や、『マップ』『SNS』『クエスト』など、いきものにまつわる様々な機能を備えているので、ゲーム感覚でいきものの世界を楽しむことできます!
このアプリを使って、今まで何気なく見過ごしてきた身近な生きものたちに目を向けてみると、きっと現実世界がゲームのように面白くなるはずです。
ぜひインストールしてみてください!
※アプリについてのもっと詳しいご説明は こちら から