ブチハイエナの知られざる社会

2020年2月24日 ALL生物
ブチハイエナ (Budgiekiller / CC BY-SA (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5))

ブチハイエナは、群れの中でメスがオスより優位であり、メスが偽陰茎(pseudo-penis)を持っています。また、新生児同士が殺し合う行動も見られます。今回は、そんな驚きだらけの生態をもつブチハイエナについてのお話です。

ブチハイエナの特徴

ブチハイエナ Photo by Zanzibarski from pixabay

大きさは、体長約130cm、体重60-70kgで、ハイエナの中では最も大型です。メスがオスよりも10%ほど大きいです。西アフリカから東アフリカ、アフリカ南部のサバンナや低木林地帯だけでなく砂漠地帯にも生息します。

ブチハイエナの群れ

ブチハイエナは、単独もしくは、ペアで生活する場合もありますが、80頭くらいで構成される群れを作ることもあります。その群れは、クランと呼ばれています。クラン内では、メスがオスよりも常に優位です。もっとも低ランクのメスでもオスよりはランクが高いです。基本的にメスは生まれたクランに残り、オスは2歳半頃に生まれたクランを出ます。

Photo by IanZA from pixabay

少なくとも12種類の鳴き方が知られており、他個体と様々な音声コミュニケーションをとっていると考えられます。
高順位のブチハイエナは、低順位のブチハイエナとの直接の闘争によってその地位を維持します。しかし、それだけではなく、血縁もとても重要です。子供であっても、上位のメスの子供は、その母親よりも下位の大人のメスより順位が高いです。兄弟同士では、あとから生まれた子供の順位が一番高くなります。母親が死ぬと、子供はかつて自分よりも低順位だった個体から、攻撃を受けるようになることがあります。

ブチハイエナのメスの偽陰茎

メスは、陰核が陰茎状に肥大した偽陰茎を持っています。この偽陰茎は、勃起することもできます。また、陰唇が結合して脂肪を蓄積したものが睾丸に見えるようになっています。排尿も交尾も出産もこの偽陰茎を使って行われます。ブチハイエナの新生児は、他の肉食獣と比べて大きいことに加え、この偽ペニスを通らなくてはならないため、ブチハイエナの出産は、難産になることが多いと言われています。どうして、このようなリスクを負って、メスが偽陰茎と偽睾丸を持っているのかについて、あまり良くわかっていません。偽陰茎や偽陰嚢を持つことに、利点があるわけではないのではないかという説もあります。

ブチハイエナの巣穴

ブチハイエナ Photo by GalliasM / CC0

ブチハイエナが自分で巣穴を掘るのは珍しく、多くは、空になったイボイノシシやトビウサギ、ジャッカルの巣穴を利用します。同じクランの複数のメスが、その巣穴で子育てをします。オスは子育てには一切関与しません。巣穴には、12個以上の出入り口があることもあり、細いトンネルでつながっています。巣穴の中は、細いトンネルの先に2mくらいの幅のある小部屋がつながっている形になっています。狭いトンネルを使うことにより、天敵が入れないようにしていると考えられています。

子供どうしの殺し合い

ブチハイエナ Photo byBernard DUPONT from FRANCE / CC BY-SA

ブチハイエナは、母親の体重との比率から考えると大きめである約1.5kgの子供を1回に1-4頭生みます。幼獣は、肉食獣としては珍しく、生まれたときから目が開いており、6-7ミリの犬歯も生えています。生まれてすぐ、子どもたちは互いに殺し合い、始めの一ヶ月で25%の子供が死ぬと考えられています。このことは、弱い個体を排除する仕組みだと考えられます。また、子供は同性同士で戦うことが多く、成長後の順位争いのライバルを減らすための行動であると推察されます。

ハイエナの研究から明らかになったストレスとテロメアの関係

上下関係が厳しいブチハイエナの社会では、高ランクのハイエナから良い餌が食べられるため、低ランクのメスやオスのハイエナは、遠くまで餌を探しに行く必要があります。このため、高ランクのハイエナよりも低ランクのハイエナは、餌を得るために多くのコストがかかります。必要な栄養が細胞に行き渡らないことにより起こるストレス(代謝ストレス)は、活性酸素やストレスホルモンの濃度を高めます。そして、高濃度の活性酸素やストレスホルモンがテロメアの短縮に影響することが知られています。他の動物でも、このような生活の質とテロメアの長さに関係が見られる可能性が考えられます。