竹(笹を含む)を食べることに特化したパンダは、餌資源の枯渇の危機に遭うことはなくなりました。しかし、消化の悪い竹を餌資源にするコストもあります。今回は、そんな食肉目でありながら、草食に特化する変わり者、パンダの生態について詳しくお話します。
パンダは何を食べるの?
パンダといえば竹や笹というイメージが多くの人にあると思います。野生下では30種類以上の竹を食べ、季節に応じて栄養の多い部位を選んで食べています。特に栄養豊富で繊維の少ないタケノコは、パンダの大好物です。タケノコの季節が終わると葉っぱを食べ、葉の質が悪くなる冬には、竿を食べます。パンダの野生下での食べ物の99%は竹であると考えられていますが、実は動物の死肉を食べることも稀にあります。なお、動物園ではリンゴや柿などの果物や、パンダだんごと呼ばれるトウモロコシや大豆などで作られた団子など、笹以外の様々なものを与えて飼育しています。
竹を食べることのコスト
竹は、パンダの住んでいる環境には豊富にあるため、食べ物が無くて困ることはありません。しかし、パンダは、食べ物を竹に特化させているにも関わらず、消化器官の構造は、他のクマと比べてそれほど変わりません。他の草食動物、例えばウシの腸の長さが体長の約20倍ほどあるのにと比べて、パンダの腸は、4-6倍ほどしかありません。肉食獣であるライオンでも約4倍、人でも4倍ほどであることから、パンダには、草食に適するような腸の構造上の変化がほとんど起こっていないといえます。このためパンダは、竹の乾燥重量の17%ほどしか消化できず、1日に12.5kg以上の竹を消費しないと栄養を十分得ることができないと言われています。その大量の竹を摂取するために、1日14時間もの時間を採食に費やしています。
パンダの腸内には、他の草食動物と同様に、食物繊維の主要な成分であるセルロースを分解することができる細菌に近縁な細菌が住んでおり、その細菌の種類は少なくとも20種はいるということがわかっています。このうち7種はパンダの腸内で初めて発見された細菌です。
パンダの暮らし
パンダは意外と高標高に住んでおり、その生息域は標高1200mから4100mです。オスは、複数頭のメスがいる大きなホームレインジをもっています。オス同士が出会うと攻撃的な行動をとりますが、一度順位が決まると、怪我やエネルギーのロスを減らすため、直接的な戦いをしなくて良いよう他個体を避けながら移動していると考えられています。一部の強いオスが、複数頭のメスと交尾する一夫多妻制です。また、マーキングする場所が決まっており、そこを訪れたパンダは、別のパンダの情報を臭いや木の引っかき傷から得て、自分の情報も残していきます。
パンダの子育て
野生でのメスの発情期は、3-5月です。ツキノワグマは、冬眠中に子供を生みますが、パンダは冬眠をしません。3-6ヶ月ほどの妊娠期間を経て、100-200グラムほどの子供を1頭か2頭生みますが、野生下で最終的に育つのは1頭のみです。洞窟もしくは、木の洞に子供を寝かせます。メスが、子供を置いて水を飲めに行けるよう、子育て用の穴の近くには水辺があります。木のウロは、原生林には多くありますが、二次林には少なく、このことが、パンダがあまり二次林ではみられない理由ではないかと考えられています。
メスの受精可能な日が1年に2,3日ほどしかなく、加えてオスとメスの発情のタイミングを合わすのが難しいため、飼育下では繁殖が難しい動物とされます。
絶滅危惧種のパンダ
パンダは、密猟、生息地の破壊などにより生息数が減少したと考えられています。1974年-1977年の調査では、2459頭と推定された生息数が、1985-1988年の調査ではその半数以下の1216頭と推定されました。密猟の取締や生息地の保護が行われ、2011年-2014年には、1864頭と推定されています。餌が竹であることから、餌に困ることはなく、野生下では繁殖率も高いため、密猟の摘発と生息地の保護の成果がすぐに反映されたものと考えられます。しかし、餌資源を竹に強く依存しているため、数十年に一度起こる竹の一斉開花と、それに続く竹の一斉枯死がパンダに与える影響が懸念されています。生息域が人為活動により分断されている地域があるため、一部の地域で大規模な竹の枯死が起こった場合、パンダが他の竹がある地域に移動できない可能性があり、問題を深刻化させています。また、温暖化による気候変動が、竹の生育に与える影響も懸念されています。