ユニークな特徴をもつ植物、食虫植物

2018年6月6日 ALL生物

種はどうやって生まれたかの回で、生物は、各個体同士の競争の結果、自然淘汰によって選択されて進化し、現在の形態に至っているという進化論のお話をしましたが、現存する生物の中でも、植物なのに動物を食べる食虫植物は、かなり特徴的な生き物の一つではないでしょうか。今回は、食虫植物の分布や、どのように虫を食べ、また、なぜ虫を食べるようになったのかについてお話したいと思います。

食虫植物といえば、一番先に想像されるのは、ウツボカズラでしょうか。それとも、ハエトリソウでしょうか。食虫植物は、世界で11科20属550種が知られており、日本にも、2科4属21種報告されています。よく園芸品店でも売っているウツボカズラや、ハエトリソウは、暖かい地域が原産のため、食虫植物は日本より暖かいところで生育する植物というイメージがある方もおられるかもしれませんが、虫を食べる植物は、北海道から沖縄まで日本中に分布しているようです。私も沖縄の森林の尾根筋でモウセンゴケを見つけたことがあり、意外と身近なところで見つけられることに驚きました。

コモウセンゴケ

コモウセンゴケ。やんばるにて。

食虫植物が虫を捕らえる方法には、以下の5種類あります。

  1. 虫の運動の刺激を受けて、自ら動いて虫を捕らえる。例)ハエトリグサの二枚貝状の葉は、虫の動きを感じて閉まる。
  2. 腺毛が出す粘液によって、虫を捕らえる。例)ムシトリスミレの仲間
  3. 落とし穴のような形を作り、虫が自力ではい出せないようにする。例)ウツボカズラの壺状の葉に落ちると昆虫は出られない。
  4. ドアのついた捕虫嚢を持ち、水圧で小動物を吸い込む。例)ウトリキュラリア属、ポリポンポリックス属
  5. 植物内にY字型のらせん上の迷路に逆走できない仕組みを作り食虫器に誘導する。例)ゲンリセア属

1、2、3までは有名ですが、4、5のような捕虫の仕方もあるようです。4、5については、小さかったり、水中にあったり、地中にあったりで、他の3つのパターンの食虫植物と比べてかなり地味で外見からは食虫植物とすぐにはわかりません。

このように食虫植物の捕食を行う部分は、形態的にバリエーションがありますが、全て葉が変形したもので、最終的には、消化酵素を分泌して捕らえた虫を溶かして吸収するというのも共通しています。また、これらの食虫植物が生えている場所にも、共通する特徴があります。それは「酸性で土壌の栄養分が少ない」という特徴です。食虫植物は、他の植物との競争に負け、肥沃な生育しやすい土地を追い出され、貧栄養の土地で生きのびるために、虫を食べて栄養を得るという方法を獲得しました。このユニークな形態は、窮地を脱するための戦略だったのです。まさに自然の妙です。

ウツボカズラの森

ウツボカズラが自生するボルネオの森林

ボルネオ島のジャングルでも、貧栄養な土壌の森林で立派なウツボカズラが沢山みつかります。このウツボカズラの中には、ツパイ(リスに似た小型の動物)のトイレとなっている種があることが最近報告されました。ウツボカズラは、甘い蜜を出し、それを舐めに来たツパイは、ウツボカズラの壺の中で排泄をするのだそうです。こうしてウツボカズラは、ツパイのうんちやおしっこから栄養を得るそうです。ウツボカズラにしてみれば、思わぬ報酬を得た!というところでしょうか。とはいっても、常に進化自体は、遺伝子の変異によって起こるものであり、何かの目的を持って起こるわけではありません。すべての進化は、何らかの変異が生じた個体が、その変異のおかげで思わぬ利益を獲得し、その変異を子孫に遺伝的に伝えることの繰り返しによって起こっているといえます。

ウツボカズラ

ウツボカズラは、他の木に絡まって高いところから吊ら下がっていることもあります。このようなところでは気をつけて歩かないと、ポットの中の水がひっくり返って身体がビショビショになります。

ウツボカズラ

親指サイズのウツボカズラ

ウツボカズラ

くびれのあるウツボカズラ

ウツボカズラ

上から水が入らないように、成長途中のウツボカズラは、きちんと蓋がされています。

ウツボカズラの花

実は、ウツボカズラも他の植物と同様に、花を咲かせ、実を付けます。

食虫植物は、虫を食べることによって、主に窒素を吸収します。ですから、自宅で観賞用に栽培されるときは、窒素分の少ない土壌に植えると、捕食器官を沢山作ってくれるみたいです。