ハクビシン(Paguma larvata)という動物は、日本に生息する中・大型哺乳類の中でもかなり知名度の低い動物ではないでしょうか。個体密度が低く、夜行性であるため、直接見る機会が極端に少ないのが原因だと思われます。しかし、近年、住宅地での目撃例が増えているようです。今回は、これから有名になるかもしれない存在、ハクビシンについてです。
ハクビシンとは?
ハクビシンは、日本に唯一生息しているジャコウネコ科ハクビシン属の動物です。ハクビシン属の動物は、このハクビシンのみです。世界的には、10以上の亜種に分類されており、顔の模様に変異が大きく、日本に生息する個体のように、顔の真ん中に白い筋の入ったものから顔全体にマスクをかぶったような真っ白の顔をしたものまで様々です。
分布域は、東南アジア、南アジアであり、日本は分布の北限です。
体の大きさも少し大きめのネコくらいですが、尾がネコよりも太く、長くて目立つため、ネコと見間違えることは少ないと思われます。また、樹上での生活が得意だという特徴があります。食べ物は、果実や昆虫、小型動物などであり、季節に応じて柔軟に餌資源を変えていると考えられますが、夜行性かつ樹上性であるため、目撃する機会が少ないです。目視観察が難しい上に、あまり関心がもたれてこなかったためか、研究例が非常に少なく、その生態はほとんど分かっていません。
ハクビシンは在来種?外来種?
タヌキやキツネと比べ、随分認知度が低いこの動物は、長年に渡り、日本の在来種であるのか、外来種であるのか議論されてきました。江戸時代の絵に、ジャコウネコらしい動物が描かれたものがあるようです。現在外来種として考えられている多くの種は、明治時代に侵入したものがほとんどであるため、江戸時代以前から日本にいたという記録は、在来種であることを示唆すると考えられて来ました。しかし、近年行われたDNA解析の結果、台湾から移入されたという説が有力になっています。ハクビシンによる被害
現在、なぜか急速に生息場所を拡大しているようです。ハクビシンは野生下では、樹上で果実を採食したり、眠ったりする習性があります。この木登りが得意な習性により、容易に家屋へ侵入し、屋根裏に住み込むことが可能なようです。猫よりも大きい体サイズゆえに排泄物も大量であり、悪臭などの被害が報告されています。また果実や野菜などの農作物が食べられる被害も増えています。かなり昔から日本にいた動物でありながら、近年、急に人の住む地域に侵入してきたというのは、興味深い現象です。
雪が積もる奥山にも住むハクビシン
一方、ハクビシンは、人が住まない山奥で、かつ冬期には積雪深が2mを越すような地域でも、私の研究で設置しているカメラトラップに撮影されたことがあります。主に熱帯に分布するハクビシンが、冬期の寒さに耐え、雪にも耐えて生き延びているのは、驚きです。ちなみに、熱帯地域には、ジャコウネコ科の動物が複数種共存していますが、他のジャコウネコと比べ、ハクビシンは、高標高の比較的低温地域に分布しています。ハクビシンは、ジャコウネコの中では比較的低温に対して高い適応能力をもっているため、日本に侵入できたのだと考えられます。