今回も、前回に引き続きタンポポのお話です。
今回は外来のタンポポが、在来のタンポポの日本での生育に影響を与えているのかどうかについてお話したいと思います。
在来・外来タンポポがそれぞれ好む環境
前回お話した在来と外来のタンポポの性質の違いにより、自ずと生存に適した環境は、在来タンポポと外来タンポポで異なります。在来のタンポポは、夏に被陰されても秋から早春にかけて日が当たる場所であれば、生育できます。しかし、周りに多数の在来タンポポがないと、種子生産ができないため、その場所で世代交代ができなくなります。一方、外来のタンポポは、夏期でも他の植物に被陰されない場所でないと生育しにくいと考えられますが、たとえ1個体でもそこに生育できれば、そこからまた種子生産をして、広がることができます。孤立しても広がることができますが、1年中日の当たる開けた場所でないと生育しにくいという条件があるため、セイヨウタンポポは、在来の植物が夏に繁茂するような、撹乱が少ない安定した環境ではなく、市街地に近く、頻繁に撹乱が生じる場所でよく見つかる傾向があります。セイヨウタンポポが好む環境は、在来のタンポポにとっても生育適地である場合が多いようですが、セイヨウタンポポは、一年中成長し、在来種に比べ種子生産量も多く、かつ遠くまで飛ばせる種子を作ることができるため、生息適地に侵入する能力が在来のタンポポよりも高いと考えられます。
在来のタンポポは、外来のタンポポに駆逐されるのか。
外来生物の侵入によって在来生物の生息地が奪われるということは、よく報告されています。また、在来のタンポポをあまり見かけなくなり、外来のタンポポが頻繁に見られるようになったことから、タンポポでも同様のことが起こっていると考えられたこともありました。しかし、上記のように、在来のタンポポが生育できる環境であっても、セイヨウタンポポは生育出来るとは限りません。それに加えて、セイヨウタンポポが侵入するような撹乱地では、多くの場合、在来のタンポポは侵入できたとしても孤立してしまい種子生産がうまくいきません。このため、セイヨウタンポポによって場所が奪われて在来のタンポポが減少したと考えるよりは、在来のタンポポの生育に適した場所が、少なくなったため、在来のタンポポが減少したと考える方が妥当なようです。ちなみに、造成地であっても、在来タンポポの種子供給があり、他の植物の刈り取りも行われない場所であれば、数年後には、セイヨウタンポポよりも在来タンポポが優勢になったという実験結果もあるようです。このことは、日本の開けた環境は、放っておけば造成地であっても在来タンポポにとって、有利な環境となること、また、セイヨウタンポポがあるからといって在来のタンポポの生育が抑制されるわけではないことを示唆しています。
今後懸念される日本での問題
今まで日本に侵入していたセイヨウタンポポは、多くが3倍体です。一般的に3倍体の植物は、正常な減数分裂が行えないため、正常な配偶子を作れないと考えられています。ところが、雌親がニホンタンポポ、雄親がセイヨウタンポポの交雑種ができることが分かっています。最近の研究により、多くのセイヨウタンポポが、ニホンタンポポとの雑種であることが判明しています。セイヨウタンポポが、ニホンタンポポと交雑し、ニホンタンポポの特性を獲得することにより、より日本の環境に適応できるセイヨウタンポポの雑種が生まれて日本に広がる可能性があります。それにより、ニホンタンポポの生息可能ニッチが減る恐れがあります。しかし、この場合であっても、ニホンタンポポの遺伝子がセイヨウタンポポの遺伝子に汚染されることはないと考えられています。
一方、近年輸入されたセイヨウタンポポの中には、2倍体が含まれていることがあるようです。2倍体の外来のタンポポが日本の在来のタンポポと交配してしまうと、次々と日本の在来タンポポの遺伝子に外来のタンポポの遺伝子が混ざってしまい、日本の固有のタンポポの特徴が失われることになります。つまり、日本の在来タンポポが無くなってしまうことになります。一度遺伝子が混ざってしまえば、混ざっているものと混ざっていないものを分けて取り除くのは、ほとんど不可能だと考えられます。2倍体のセイヨウタンポポが日本に広がると、これまで以上にニホンタンポポの生存にとって脅威になることが予想されます。
引用文献 :
小川潔(2013)『日本のタンポポとセイヨウタンポポ』丸善出版
渡邊幹男. 雑種性帰化タンポポの遺伝的多様性とその起源. In 2006年度(第21回)TaKaRaハーモニストファンド研究助成報告. pp. 49–63.