オス?メス?アンドロギュノス? -とてもややこしい植物の性-

2019年5月26日 ALL生物
シロツメクサの花

花を思い浮かべて下さい。その花は、オスですか?メスですか?おそらく、多くの方の思い浮かべた花には、雌蕊(めしべ)と雄蕊(おしべ)のどちらも具わっており、雌雄のいずれかに分類できるものではないことと思います。その一方で、カボチャのように、一つの株の中に雌花と雄花を咲かせる植物もあれば、イチョウのように、それぞれの株は雌花だけか、雄花だけしか咲かせないものもあります。今日は普段あまり意識することのない、花の性についてお話いたします。

そもそも花とは?

ヤブツバキの花

ヤブツバキの花

花とは、いくつかの定義があるものの、種子植物の繁殖器官と捉えるのが一般的です。シダ植物やコケ植物は種子植物ではないので、花は咲かせません。コケの胞子嚢や、スギナのツクシは通常は花とは呼びません。

ツクシ

ツクシ。スギナの胞子体。一般に花とは呼ばない。

花の性

サツキの花

サツキの花。真ん中から長く飛び出しているのが雌蕊。周りの短いものは雄蕊。

サツキの花を例にとって考えてみましょう。真ん中に雌蕊があり、周りに雄蕊があります。多くの花はこれと類似した構造を持っています。一つの花の中にメスとしての繁殖器官である雌蕊と、オスとしての繁殖器官である雄蕊が揃っているのが、多くの花の構造です。ですので、このような構造の花は、メスでもあり、オスでもあるのです。このような花を両性花(hermaphrodite flower)と呼びます。

マツの花

マツの花。先端が雌花で、根本が雄花。

しかし植物の中には、雌蕊しか持たない花や、雄蕊しか持たない花を咲かせるものもあります。カボチャやキュウリなど、ウリ科の植物が咲かせる花の多くは、雌蕊か、雄蕊のどちらかしか持ちません。それぞれ、雌花、雄花と呼ばれ、これらをまとめて単性花と言います。このように、花は両性花と単性花の2つに大別出来ますが、概ねの植物は両性花を咲かせます。

個体の性

ハマヒサカキの雌花

ハマヒサカキの雌花

ハマヒサカキの雄花

ハマヒサカキの雄花

上述の性の区別は、あくまでも花に着目したものだということに注意が必要です。単性花を咲かせる植物であっても、イチョウやアオキ、ハマヒサカキのように、一つの株に雌花だけ、あるいは雄花だけを咲かせる植物もあれば、多くのウリ科やブナ科のように、一つの株に雄花と雌花の両方を咲かせる植物もあります。雌株と雄株に分かれている前者を雌雄異株(しゆういしゅ; dioecy)、一つの株に雄花と雌花を咲かせる後者を雌雄異花同株(しゆういかどうしゅ; monoecy)と呼びます。花の性に着目すれば、いずれも雌雄がありますが、個体の性に着目すると、雌雄異株の植物はメスとオスに分かれているのに対し、雌雄異花同株の植物は、雌雄が別れていません。あまりにややこしいので、ここでは詳しくは述べませんが、両性花+雌花を咲かせる、雌性両性花同株(gynodioecy)や、両性花+雄花を咲かせる、雄性両性花同株(androdioecy)、基本的には雌株と雄株に分かれるものの、たまに両性を有した個体が現れる不完全雌雄異株(subdioecy)など、花の性表現は極めて多様です。

不完全雌雄異株の例

不完全雌雄異株の例、ヒサカキ。一つの枝に雄花と雌花の両方がある。

雌雄異株植物は基本的に木本であることが知られています。草本には雌雄異株がほとんどありません。このことは、植物の寿命、言い換えると繁殖機会の回数が影響していると考えられています。このあたりの詳しいお話は、また次の機会にいたします。

ニワゼキショウ

草本であるニワゼキショウ。もちろん両性花。

花を観察する機会がありましたら、一つ一つをよく観察してみて下さい。植物の性に着目して観察すると今まで気づかなかった発見があるかも知れません。