フツーの花を咲かせることのメリット・デメリット

2020年7月31日 ALL生物

以前の記事で、植物の性は大変複雑であることをお話しました。多くの花は雌雄が別れていないのですが、一部の植物の花は、雌と雄に分かれています。雌雄が別れている花と別れていない花があるのはなぜでしょう。雌雄を分けることのメリットとデメリットから植物が多様な性表現を有するわけを考えてみたいと思います。

植物の受粉が成功するためには?

ヤマザクラ:サクラの仲間は自家不和合性を持つことが知られている

植物が受粉するためには、雌蕊(めしべ)に自種の花粉が付着する必要があります。雌蕊が同種他個体の雄蕊(おしべ)から提供された花粉を受け取る受粉様式を、他家受粉と呼びます。一方、雌蕊が自分自身の株が生産した花粉を受粉することを、自家受粉と呼びます。同株であれば、雌蕊が別の個花の花粉を受け取る場合も自家受粉です。他家受粉に比べ、自家受粉によって生産された子孫は、遺伝的多様性が低くなったり、有害な遺伝子を発現させてしまったりと、不都合が生じる場合が多いです。そのため、植物によっては自家受粉を防ぐ仕組みを持っています。自家受粉を防ぐ仕組みを自家不和合性と呼びます。

両性花を咲かせることのメリット

シロツメクサを訪れるニッポンヒゲナガハナバチ

シロツメクサを訪れるニッポンヒゲナガハナバチ

両性花は、一つの花でメスとオスのふたつの機能を有していています。例えば、両性花を咲かせるシロツメクサを想像してみて下さい。そこに、他のシロツメクサの個体の花粉を身に着けたハナバチがやってきます。ハナバチに訪花されたシロツメクサの花は、うまくすると、花粉を受け取るのに加えて、自分の花粉を他の同種の個体に運んでもらえます。

ヒサカキの雌花:雄しべは無く、雌しべのみ。

しかし、雌雄同株異花のウリや、雌雄異株のハマヒサカキだとこのようにはいきません。同種の花粉を身につけたハナバチが雌花にやってきたとします。運良く花粉を受け取ることが出来たとしても、雌花は花粉を作らないので、花粉を持っていってもらうことは出来ません。雄花の場合も同様に、花粉を持ち出してもらえるかも知れませんが、雌蕊がないため、花粉を受け取ることは出来ません。こうやって見ますと、単性花を咲かせる植物よりも、両性花を咲かせるほうが優秀なように思えます。実際、種子植物のうち約87 %は両性花のみを咲かせる種ですから、多くの場合、両性花を咲かせることは効率的なシステムであることは確かなようです。一見効率的とは思えない単性花を咲かせる植物が存在するのはどうしてでしょう。

両性花を咲かせることのデメリット

スギの花

スギ:風媒花。そのため、大量の花粉を作る。

風媒や水媒など、生物以外にその送粉を頼る場合、両性花を咲かせるメリットは特にはなさそうです。スギやヒノキなどの多くの針葉樹がこれにあたります。しかし、昆虫や鳥などの動物に送粉を依存する動物媒であっても、単性花を咲かせるものも少なからず存在します。

両性花を咲かせることのデメリットは、自花の花粉が柱頭に付着してしまうリスクが大きいことです。先述の通り、自家受粉は、他家受粉に比べて、生産される種子の遺伝的特性についてデメリットが多いです。自家不和合性を有していれば、その問題は解決できそうなものですが、花粉の損失は防げません。また、雌蕊に自花の花粉が付着してしまうと、柱頭の花粉を受け取れる部分の面積が小さくなり、他花の花粉の受粉の妨げになります。これらの問題が生じうるため、自家不和合性も万能ではないのです。雌雄異花同株であれば、自花の花粉が雌蕊に付着することは防げます。また、雌雄異株であれば、当然、自家受粉は起こりえません。これが、すべての植物が両性花を咲かせるわけではない理由のひとつです。

いろいろな訪花昆虫が訪れているタンポポ

いろいろな訪花昆虫が訪れているタンポポ

この記事では、植物の花や個体が雌雄を分けることのメリットを送授粉の点から説明しましたが、その他にも、種子生産の効率や、種子の散布効率からの点からも、雌雄を分けることに利点があると言われています。植物に多様な性表現をもたらす生態学的な背景は極めて複雑で興味深いものです。