なぜシマウマはシマシマなのか? -実は虫に刺されないため!?-

2020年7月27日 ALL生物

前回に引き続いて、今回もシマウマの縞の意味について、「The function of zebra stripes(シマウマの縞の機能)」から、最も有力ではないかと考えられる説についての話です。

前回は、シマウマの縞の意義について、1. 後ろの風景に縞模様が溶け込み、捕食者に見つかりにくい。2. 体温を下げるのに役立つ。3. 捕食者が獲物のサイズや逃げるスピードを間違える。4. 群れの中で個々を見分けるのに使っている。の4つの説に対して、どれも反論が考えられることをお話しました。この論文で最も有力ではないかと考えられているのは、縞が吸血性のハエの仲間に血を吸われないようにするのに役立っているのではないかという説です。

縞模様によりハエに吸血されにくくなる

吸血性のハエが、シマシマ模様の上にとまることが少ないという結果は、複数の論文で報告されています。体の輪郭がわかりにくくなる、背景とのコントラストが小さくなるなどの理由により縞模様に近づかないという可能性が挙げられています。

吸血性のハエの害

マラリアや日本脳炎など、吸血性の昆虫が媒介する病気がヒトで問題になるのと同様に、動物でも吸血性の昆虫が媒介する致死的な病気があります。また、日本でヒトの血を吸う蚊の仲間はそれほどたくさんの血を吸わないので、蚊に刺されて血を大量に失うイメージはないかもしれません。アメリカで行われた研究で、1日でウシ1頭あたり、アブに200cc から 500ccもの血を吸われることがあるという報告があります。また、アメリカで行われた別の研究では、乳牛を殺虫剤を使わずに育てた場合、1年に1頭あたり139kgも牛乳の生産量が減るという研究結果も報告されています。
そのため、多くの動物は、ハエに血を吸われないようにするために、採食時間を短くしたり、休息場所を移動したりしています。これも、間接的なハエの害といえます。

シマウマだけどうして縞でハエに対処したのか。

縞模様が、ハエの忌避に有効であるのであれば、シマウマと同所的に生息する他の大型獣にはどうして縞がないのでしょうか。これについては、他の動物は体毛が長いため、シマウマよりもハエに血を吸われにくいのではないかとCaro et al. (2014)は推察しています。体毛は、皮膚に到達して血を吸わなくてはならないハエにとって物理的な障壁になります。シマウマは、同じ地域に生息する偶蹄目の動物と比べて毛が短いため、特別に吸血性のハエに対処する必要があったと考えられます。

どうしてハエ忌避説が最有力仮説なのか。

体に縞模様のあるウマの仲間の分布域とハイエナの分布域(前回のブログの仮説3)、森林であるかどうか(仮説1)、最高気温(仮説2)、群れサイズ(仮説4)、吸血性のハエの分布との関係を解析したところ、体に縞のあるウマの仲間の分布域と吸血性のハエの仲間の分布に非常に強い相関が見られました。このことや前回のブログの他の仮説への反論を総合して、Caro et al. (2014)はハエ忌避説が最も有力な仮説であると結論づけています。

参考文献: Caro T, Izzo A, Reiner RC, et al (2014) The function of zebra stripes. Nature Communications 5:1–10.