アリを食べるちょっと変わったクモ

2021年6月19日 ALL生物

アリは、私達人間にとっては指先一本で潰れてしまうような小さな生き物であり、噛みつかれたらちょっと痛いという程度で、特別恐ろしいという印象はありません。しかし、昆虫界では、アリはあまり誰も手を出さない存在だと言えます。それは、大きなアゴとギ酸という毒を持っているためです。哺乳動物で例えると、ライオンが毒まで持っているイメージでしょうか。今回は、そんな強い相手をわざわざ獲物に選んだクモのお話です。

アリは他の生物に食べられにくい

アリに擬態したカマキリ

アリに擬態していると考えられるカマキリ

アリは、大きなアゴやギ酸を持っているため、他の昆虫から捕食されることが少ないと考えられています。クモやカマキリの中には、アリに擬態することによって天敵から身を守ろうとしていると考えられる種もいるほどです。

主にアリを食べるクモは?

多くの昆虫から恐れられていると考えられるアリですが、ミジングモ類に属する複数種のクモやハエトリグモ科のアオオビハエトリは、アリを主な獲物とする珍しいクモです。確かに、比較的どこにでも見られるアリを獲物にしてしまえば、獲物を探したり待ったりする労力だけは、他の昆虫を獲物にするよりもかからないかもしれません。

ムネアカオオアリの女王

ムネアカオオアリの女王

しかし、昆虫の中でも攻撃力の強いアリをハンティングすることは、返り討ちに合う高いリスクを伴います。

アリをハンティングするアオオビハエトリとは?

アオオビハエトリ

アオオビハエトリ

アオオビハエトリは、ハエトリグモ科に属し、「ハエトリ」と名がついていますが、主にアリを捕食していると考えられています。大変カラフルで美しいクモです。日本には、本州から南西諸島に分布し、国外では、中国、韓国、台湾に生息しています。公園や庭などで普通に見られます。アリの巣の前で、アリを待ち伏せていることもあります。

クロヤマアリをハンティングするアオオビハエトリの動画

コンクリートの上で、クロヤマアリを追いかけているアオオビハエトリを見つけました。

ハエトリグモの仲間であるアオオビハエトリは、いわゆるクモの巣を作ることはなく、地上を徘徊してアリを探します。アリを見つけると、噛みついて毒を注入し、数分後にアリが弱ったところで捕まえるという行動を取ることが知られています。この動画のアリは、他のアリと比べ歩き方がぎこちなく、動きも遅く、すでに噛みつかれて毒を注入されたのだと考えられます。アオオビハエトリは、基本的にはアリの数センチ後を追いかけ、アリがクモの方を向いたときは、1~2センチの距離を保って逃げ、隙きを見計らって腹にかぶりつくという行動ととることが観察されました。また、他の元気なアリに攻撃を受け、素早く逃げる行動も見られました。

その後、アオオビハエトリは、このアリを諦めたのか、見失ったのか、他のアリを追いかけ始めました。再度、この弱ったアリをクモの前に出してみたところ、以下の動画のようにすぐに噛み付いてヤブの中に運び、姿を消しました。このように、ひっくり返った状態のアリの頭と胸の間にかぶりつき、安全な茂みの中に連れて行ってから食べるというのが、アオオビハエトリのハンティングの典型的な行動とされています。

アオオビハエトリが毒、忍耐強い追跡、攻撃を交わす素早い身のこなしを武器にして、攻撃力の強いアリを捉える様子が観察されました。