冬に華やかな花を咲かせるシクラメンは、日本で人気の観賞用植物です。野生種も、栽培種ほど華美ではありませんが、同様の形の花をつけます。そんなシクラメン、可憐な見た目とは裏腹にどうも香りは。。。今日はそんなシクラメンのお話。
シクラメンとは?
シクラメンは、サクラソウ科シクラメン属の多年草です。Cyclamen (シクラメン属の学名)は、円を意味する古典ギリシア語が由来です。円盤状の球根の形、もしくは、花茎が受粉後に螺旋状に曲がることから円を意味する言葉が由来になったようです。一般的に園芸用に出回っているシクラメンは、Cyclamen persicum という種を改良したものです。
原産地は地中海沿岸です。西洋では、ジャガイモが流通するまで塊茎のデンプンが食用にされていましたが、シクラミンという有毒物質を含みます。19世紀頃から品種改良が盛んに行われるようになりました。
シクラメンの香り
「シクラメンのかほり」という歌がありますが、多くの栽培されているシクラメンは、カビのようなホコリのような、なんとも言えない匂いがします。栽培品種の原種である Cyclamen persicum の花がそもそもあまり良い匂いではなく、最近になるまで香りによる選抜は行われなかったようです。ところが、「シクラメンのかほり」がきっかけで良い香りのシクラメンが欲しいというニーズが増えました。そして1996年、香りが良いシクラメンの野生種 Cyclamen purpurascens を種間交雑させる技術が開発され、ついに香りの良いシクラメンの園芸品種が作られました。
歌がヒットした1975年にはなかったシクラメンの香りを現在は嗅ぐことができるようです。
ハチが起こす振動を利用するブンブン送粉
シクラメンは、野生のものも10月〜3月に花を咲かせます。シクラメン Cyclamen persicum は、別の個体の花粉を受粉させないと、2,3世代後には健全な種子が生産されにくくなるため、他個体の花粉を受粉することが世代更新には重要です。蜜は出さないため、訪花した昆虫の報酬は花粉だけです。シクラメンの花の葯は特殊な構造をもっており、マルハナバチのような大型のハチが起こす振動によって花粉が葯からこぼれ落ちるような構造になっています。
同様にハチが起こす振動によって花粉を放出する花は、他にも知られており、トマトやナスが含まれるナス属もそのような構造をもっています。
そのような受粉方式は、 Buzz pollination(バズポリネーション)と呼ばれています。Buzzはハチの「ブンブン」という翅音を表し、pollinationは送粉を意味します。この構造により、風などにより花粉が無駄に落ちてしまうことを防ぎ、効率よく昆虫に花粉を運んでもらうことができると考えられます。ちなみに、セイヨウミツバチやニホンミツバチなどのミツバチの仲間の振動では、花粉は落ちません。
興味深いことに、野生種が存在する地域には、大型のハチ類の訪花がほとんど確認されない地域もあります。そのような地域では、ガの仲間やハナアブ、アザミウマが花粉を食べに来ることが報告されていますが、彼が送粉にどの程度貢献しているのかはよくわかっていません。
【参考文献】
Schwartz-Tzachor R, Dafni A, Potts SG & Eisikowitch D (2006) An ancient pollinator of a contemporary plant (Cyclamen persicum): When pollination syndromes break down. Flora, 201(5): 370–373.