ジャコウアゲハ、毒がありそうで、、、毒がある。

2025年3月8日 生物

ツマグロヒョウモンの幼虫のように黒に赤の毒々しい色を持ちながら全く無害な昆虫がいる一方で、見た目のとおり本当に毒を持つ昆虫もいます。今回は日本でもみられる毒蝶、ジャコウアゲハについてのお話です。

ジャコウアゲハとは?

ジャコウアゲハ

ジャコウアゲハ Byasa alcinousは、チョウ目アゲハチョウ科ジャコウアゲハ属に属するチョウです。日本、朝鮮半島、中国東部、台湾、ロシアなどの東アジアに分布し、日本では秋田県以南に生息します。平地から山地の森林、農地、人家周辺の草原、河川敷など食草が生育する環境でよくみられます。成虫は、ツツジやウツギの仲間、クサギなどで吸蜜します。蛹で越冬し、寒冷地では年2化、暖地では年3化以上で、南西諸島では周年成虫がみられます。オスが麝香(じゃこう)のような匂いがすることが和名の由来です。ちなみに、麝香とは、ジャコウジカのオスの腹部の香嚢から出る分泌物を乾燥させたものです。香嚢から出る分泌物そのものはアンモニアと獣臭を混ぜた臭いと言われますが、麝香は甘い香りと言われ、香水に添加されます。

アサギマダラとジャコウアゲハの毒の違い

アサギマダラ

アサギマダラ

日本で毒蝶といえば、アサギマダラも有名です。ジャコウアゲハもアサギマダラも、幼虫の頃に食べる植物の毒を体内に溜め込むことで毒を持ちますが、それぞれ別の植物を食べます。アサギマダラはキョウチクトウ科のキジョランやカモメヅルなどを食べる一方で、ジャコウアゲハはウマノスズクサ科のウマノスズクサやリュウキュウウマノスズクサなどを食べます。毒の成分も異なり、前者はアルカロイド系の毒ですが、後者はアリストロキア酸です。アリストロキア酸は、少なくともヒトに対して腎機能に障害を与え、おそらく発がん性もあると考えられています。

ジャコウアゲハに似せたチョウ

クロアゲハ

クロアゲハ

オナガアゲハやクロアゲハは、ジャコウアゲハに似せた見た目を持つことにより、自分にも毒があると天敵に勘違いさせて捕食を免れていると考えられています。アゲハモドキという蛾も本種の擬態であると考えられます。このように天敵からの捕食を免れるために無害な生物が有害な生物に似せる擬態は、ベイツ型擬態と呼ばれます。

個性的な蛹

ジャコウアゲハの幼虫

ジャコウアゲハの幼虫Photo by Cory, CC BY-SA 2.1 JP, via Wikimedia Commons

ジャコウアゲハの幼虫は、初令から終齢に至るまで、毒がある割にはそれほど目立つ警告色を持たず、終齢でも赤みとトゲが多めの鳥の糞擬態といった感じです。

ジャコウアゲハ(Photo by うちのつぐみん)

ジャコウアゲハ Photo by うちのつぐみん

一方で、蛹はかなり個性的な見た目をしています。怪談「皿屋敷」のお菊が投げ込まれたと言われる井戸がある姫路城で江戸時代にジャコウアゲハの蛹が大発生し、この蛹が女性が後ろ手に縛られたように見えるということからお菊が虫の姿をして出てきたと噂され、ジャコウアゲハの蛹は、「お菊虫」と呼ばれるようになったと言われています。