ハエ、ボフンッ!

朝起きると、台所の浄水のノブの上に変なショウジョウバエの死骸がありました。よくみてみると、腹部の体節と体節の間が白く盛り上がっています。
ハエカビとは?

ハエカビ目 Entomophthorales に分類される菌の総称で、6科22属200種が知られています。多くは昆虫に寄生し、一部に、藻類やシダ類、線虫に寄生したり、自由生活をするものがあります。ちなみに、学名のEntomophthoralesは「昆虫を破壊するもの」という意味です。
ハエカビに行動操作されるハエ

ハエに寄生したハエカビは、生きた細胞内に侵入して増殖します。ハエカビに感染したハエは、できるだけ高いところに移動した後、死にます。ハエの死体表面からはたくさんの胞子が射出され、ハエカビに感染したハエの死骸の周りは、ハエから飛び出した胞子で白っぽくなります。ハエカビがハエに高いところで死ぬように行動を誘導していると考えられており、これによりハエカビは遠くに胞子を撒き散らすことができます。

ハエカビに感染したメスがオスのハエを誘引する

多くのカビは、胞子がたまたま生存に適した場所に到達したときにのみ増殖できるという運に頼った方法で繁殖します。しかし Entomophthora muscae というハエカビは違います。このハエカビに感染したメスのハエは、オスのハエを誘引するフェロモンを出します。誘引されたオスのハエは、感染したメスと交尾しようとしたり、死骸を食べようとしたりします。その際にハエカビの胞子がオスの体にも付着し、感染が広がります。このように、このハエカビは宿主の方から自ら近づいてくるように仕向けるという、非常に巧妙な手段をもっています。
【参考文献】
Naundrup, A., Bohman, B., Kwadha, C.A., Jensen, A.B., Becher, P.G., and De Fine Licht, H.H. 2022. Pathogenic fungus uses volatiles to entice male flies into fatal matings with infected female cadavers. The ISME Journal 16: 2388–2397. doi:10.1038/s41396-022-01284-x.