進化の教科書!サクラマス

2024年11月13日 生物

焼き魚に鍋に、食卓の魚としておなじみのサケ。ですが、野生の姿を見たことがある方は少ないのではないでしょうか。現在開催中のクエスト「おかえりサケ」では、日本の川に遡上するサケのなかまを対象にしています。

ここでは、なかでも特に興味深い生態をもつサクラマスについてご紹介します!

サクラマスとは?

日本列島近辺にのみ生息するサクラマス。本来ます寿しに使われていたのは本種で、味や肉質がとても繊細で美味しいです(現在はトラウトサーモンが使われることが多い)。まとまって遡上しないため、見つけるのは難しいですが、婚姻色の美しさはサケ類随一かもしれません。

滝を登るサクラマス

滝を登るサクラマスのオス(手前)とメス(奥)(Photo by 花木)

サクラマスには、亜種として、東日本・日本海沿岸に生息するサクラマス、西日本の太平洋側に生息するサツキマス、琵琶湖に生息するビワマス、そして台湾の高地に生息するタイワンマスが亜種として含まれます。ビワマスでは、海の代わりに琵琶湖に降って成長したのちに、琵琶湖に流入する川の上流へ戻って産卵します。

「山溪ハンディ図鑑 増補改訂 日本の淡水魚」より作成

サクラマスの進化の不思議

サケの仲間では最も特殊化した種類と考えられ(Wang et al., 2022)、暖かい環境に適応しています。
とりわけ興味深いのは、海に降って成長するのかどうかが、性別と場所によって違うことです。サケの仲間でありながら一生を川で過ごす個体がおり、これが亜種サクラマスではヤマメ、亜種サツキマスではアマゴと呼ばれているのです。

アマゴ

陸にとどまったサツキマスである、アマゴ(Photo by ケシゲンゴロウ)

まず性別については、多くのメスが海へ降る一方で、オスは一部の個体が海へ降ります(Tamate and Maekawa, 2006)。これは、海で生活することのメリットがメスでは大きいのにオスでは小さいからです。

海での生活は、餌が多いため大きく成長するチャンスである一方、哺乳類やサメなどの天敵が多いです (Adams et al., 2016; Morita et al., 2014)。メスでは体が大きくなるほど沢山の卵を産めるため、子孫を多く残すうえでは海でのハイリスクな生活に賭けるだけのリターンがあります。一方のオスでは、大きく成長しないとメスとは正式なつがいになれないものの、交尾の際に小さなオスが横入りして子孫を残す、いわゆるスニーカー戦略があります(いきものにズルいという言葉はありません!)。そのため、天敵の少ない川にとどまっても子孫を残せるのです。

サクラマスのつがい

海から帰ってきたサクラマス同士のつがい(Photo by 寅之助)

場所については、暖かい地域ほど川にとどまりやすく、寒い地域ほど海へ降る傾向があります。

サクラマスたちが生活する川の上流部では、主な餌は川を覆う木から落ちてくる虫たちです。その虫たちの餌は草木の葉っぱです。つまり大雑把に言えば、その場所の草木の成長の速いほど餌が多くなります。そのためサクラマスたちにとっては、草木の成長が速い暖かい地域の川ほど餌が多く、逆に草木が成長しづらい寒い地域の川ほど餌が少なくなります。

一方の海では、寒い海ほど冬の間に水がかき混ぜられて栄養が豊富になります。そのため寒い海ほど餌が多いのです。寒い海は濁っていて暖かい海は透き通っているイメージがありますが、これは寒い海ほどプランクトン(餌)が多いから濁って見えているんですね。したがって、寒い地域ほど海に降るメリットは大きくなることから、寒い地域のサクラマスは暖かい地域に比べて海で生活する傾向があると考えられます(Maekawa and Nakano, 2002)。

ビワマスの幼魚

ビワマスの幼魚(Photo by あおけい414)

このように、サクラマスは川で過ごしている個体も多いので、渓流釣りだけでなく、ガサガサで捕まることもあるかもしれません。

なおサクラマスたちは大切な漁業対象なので、観察を終えたら、元の川に返しましょう。

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参考文献:

  • Adams J, Kaplan IC, Chasco B, Marshall KN, Acevedo-Gutiérrez A, Ward EJ. 2016. A century of Chinook salmon consumption by marine mammal predators in the Northeast Pacific Ocean. Ecol Inform 34:44–51. doi:10.1016/j.ecoinf.2016.04.010
  • Maekawa K, Nakano S. 2002. To sea or not to sea: a brief review on salmon migration evolution. Fish Sci 68:27–32. doi:10.2331/fishsci.68.sup1_27
  • Morita K, Tamate T, Kuroki M, Nagasawa T. 2014. Temperature-dependent variation in alternative migratory tactics and its implications for fitness and population dynamics in a salmonid fish. J Anim Ecol 83:1268–1278. doi:10.1111/1365-2656.12240
  • Tamate T, Maekawa K. 2006. LATITUDINAL VARIATION IN SEXUAL SIZE DIMORPHISM OF SEA‐RUN MASU SALMON, ONCORHYNCHUS MASOU. Evolution 60:196–201. doi:10.1111/j.0014-3820.2006.tb01094.x
  • Wang Y, Xiong F, Song Z. 2022. Molecular Phylogeny and Adaptive Mitochondrial DNA Evolution of Salmonids (Pisces: Salmonidae). Front Genet 13. doi:10.3389/fgene.2022.903240