イチョウは、秋になると美しい黄色に紅葉し、街路樹として好んで利用されることも多く、日本では、あるありふれた植物の一つです。ですが、イチョウの葉を見て、なにか他の植物とは違う雰囲気を感じる人も居られるのではないでしょうか。実は、イチョウは世界的にもかなり珍しい特徴を持った植物なのです。
昔は繁栄していたイチョウの仲間
イチョウ Ginkgo biloba は、裸子植物門イチョウ綱イチョウ目イチョウ科イチョウ属に属する植物です。およそ2億年前の中生代ジュラ紀頃、裸子植物が繁栄していた頃に、イチョウも繁栄し、世界中に分布していました。発見されたイチョウの仲間の化石は、17属に分類されています。ところが、イチョウの仲間は、新生代の氷河期に衰退し、中国南西部のみに残るだけになりました。現存するイチョウの仲間の植物は、イチョウのみです。現在、イチョウは国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されています。日本でイチョウの仲間が生育していた最後の痕跡は、500-600万年前の新生代の西日本の地層から見つかった化石です。種子植物の中では、ソテツ類と並んで最も原始的な性質を持った植物と言われています。
イチョウの分布域
自然分布では中国南西部のみに縮小したイチョウですが、仏教寺院などに盛んに植えられるようになり、日本にも伝来しました。ヨーロッパへは、1962年にケンペルが長崎から種子を持ち帰り、その後オランダやイギリスで栽培され広まりました。現在では、北緯20度から60度、南緯20度から50度の地域、つまり極地と赤道に近い地域以外で栽培されており、年平均気温0℃から20℃、降水量500mmから2000mmの地域では栽培可能と考えられています。イチョウの仲間は、過去に氷河期に衰退した植物ではありますが、現存しているイチョウは、寒冷地に強い性質をもった植物といえます。
精子を作るイチョウ
シダ植物やコケ植物は精子を作りますが、ほとんどの種子植物は、雌しべの柱頭についた花粉から伸ばした花粉管が精核を胚珠に運ぶため、運動能力をもつ精子は作りません。しかし、種子植物の中でも、裸子植物であるイチョウとソテツの仲間の植物のみ、精子を作ることが知られています。この特徴は、原始的な性質を残したものだと考えられています。
イチョウは、北半球の温帯では、4-5月頃に花を咲かせ、花粉を作ります。花粉は、風に乗って雌樹まで飛んでいき受粉します。受粉した花粉は、胚珠組織の中に根のように花粉管を伸ばし、雌樹から、養分の供給を受けます。4-5ヶ月後の9月初めに2つの精子ができ、精子が卵細胞まで泳いで受精が起こります。このようにイチョウは、受粉してから数ヶ月もの間花粉は雌樹から栄養を受け、その後、花粉から放出された精子によって受精するという珍しい生殖様式を持っています。
【参考文献】
長田敏行(2014)『イチョウの自然誌と文化史』裳華房