漁業で得られる生物情報:ふぐ延縄漁で獲られる魚たち(エイ類)

2021年2月17日 ALL調査・観察方法
ふぐ延縄漁で獲れたエイ

以前のブログ「漁業で得られる生物情報:ふぐ延縄漁で獲られる魚たち(ドチザメ科)」で、瀬戸内海西部周防灘(すおうなだ)のふぐ延縄(はえなわ)漁に同行した体験レポートを紹介致しました。その後も、さらに2回の漁に同行して、漁獲された魚類の分布情報を収集しました。前回は、サメ類に関する内容でしたが、今回はエイ類に関する報告です。

サメ・エイ類(板鰓類)

サメとエイは軟骨魚綱板鰓(ばんさい)亜綱と呼ばれる分類群に属する魚類です。板鰓類のうち、鰓裂(さいれつ)が体の側面に開くものをサメ類、下面に開くものをエイ類として区別します。板鰓類が現生魚類に占める割合は、種数にしてわずか5%ほどしかありません。サメ類には9目34科、エイ類には4目17科が含まれ、合計1000種ほどが知られています。日本周辺からは200 種ほどが知られており、高次捕食者として生態系の中で重要な役割を担っていると考えられています。

板鰓類の大きな特徴は、その生殖方法にあります。板鰓類は体内受精を行うため、雄の腹鰭の内側には雌の体内に精子を送り込むための一対の交接器(クラスパー)が有ります。そのため、外部形態から雌雄を判別することができます。また、卵が母体内に長くとどまり、体内で孵化する卵胎生の種も多く存在します。

一般に、板鰓類は大型で生息数が少なく、長寿で成熟に達するまでに長い年月を必要とします。また、大きな胎仔や卵を一度に少数しか産まないことから、漁獲圧などにより個体数が極端に減少した場合、回復に時間を要します。環境省が公表した海産魚類のレッドリストには準絶滅危惧(NT)と情報不足(DD)を含めて計217種の魚類が掲載されています。その中で、板鰓類はサメ類37種、エイ類27種(計64種)で全体の29%を占めています。

ふぐ延縄漁で獲られるエイ類

ウチワザメ(Platyrhina tangi

「サメ」とありますが、サカタザメ目ウチワザメ科に属する全長60センチほどのエイの一種。その名の通り、団扇(うちわ)のような形をしています。また、背面の刺の周りにある黄色い斑紋が特徴的です。食べると美味しいそうですが、食用として利用されることは稀なようです。環境省の海洋生物リッドリストでは、準絶滅危惧(NT)に分類されています。文献を探しましたが、食性に関する報告があるものの、繁殖や生息場所など詳しい生態に関してはほとんど調べられていないようです。

コモンカスベ(Okamejei kenojei)?

ガンギエイ目ガンギエイ科に属する全長60センチほどのエイの一種。日本沿岸に広く分布しており、「かすべ」として食用とされているのが本種のようです。エイヒレや練り物の原料になるほか、唐揚げや刺身にして食べられています。ふぐ延縄の漁師さんは、サメ・エイ類で、唯一このエイだけは持ち帰って食べるそうです。鰭の唐揚げを作っていただきましたが、臭みはなく、軟骨の触感が独特で美味しいものでした。

名前「コモン」の由来は背面に小紋の模様ですが、漁獲されたすべての個体で明瞭な模様はありませんでした。そのため、ほかの種類ではないかと図鑑や文献を色々調べました。本種の背面の模様は成長に伴って薄くなるそうです。また、ガンギエイの仲間は、個体差や成長差が大きい上に分類形質が少ないため、専門家でも一見して種を見分けるのは難しいそうです。近年、分類が再検討されているグループのようですので、今後も情報を集めて、同定を再検討したいと思います。今回は、以下の特徴と瀬戸内海では一般的に見られる種ということでコモンカスベ(?)として同定しました。

吻部は半透明で尾部の上面には雄に3列、雌には5列の刺があり、ガンギエイ(Dipturus kenojei)など他種と区別することができます。ちなみに「ガンギ」の由来は、尾部に向かって配列された多くの刺を雁木(雁の行列のようにギザギザした形のもの)に見立てたという説や、雪上を歩くカンジキに見立てたという説などがあるようです。

環境省の海洋生物レッドリストおよび国際保護連合(IUCN)のレッドリストには、情報不足(DD)として掲載されています。食用として広く利用されていますが、本種についても詳しい生態に関する情報はほとんどないようです。

アカエイ(Hemitrygon akajei

トビエイ目アカエイ科に属する日本沿岸に広く分布しているエイです。全長1メートルほどになり、尾に毒針を持つため捕獲した際には注意が必要です。この漁では、海に返していますが、瀬戸内海では一般に食用として利用されています。日本では、ふつうに見られる種類で、それを狙った漁業も行われていることから、環境省のレッドリストには掲載されていません。しかし、IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧(NT)にランクされており、世界的には絶滅が危惧されている種です。また、日本沿岸は本種の分布の中心であると考えられており、世界的な資源量の保全のためにも、日本沿岸における本種の絶滅リスクを評価し直すことも検討されています。

漁獲データ×バイオームの利用

漁業に同行するたびに、新しい魚類が捕獲され、4回の漁業に同行して計23種、789個体の魚類の分布情報が得られました。また、サメとエイ類についてさらに詳しく調べてみたところ、環境省およびIUCNのレッドリストに掲載された6種の希少種を含んでいました。今後も漁業で得られた海洋生物に関する分布情報を収集して、ブログで報告致したいと思います。

【参考文献】

日高 敏隆 (監修)(1996)日本動物大百科 5 両生類・爬虫類・軟骨魚類.平凡社.

Huveneers, C. & Ishihara, H. (2016) Hemitrygon akajei. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T60148A104113240. (https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T60148A104113240.en.)

Ishihaha, H., Wang, Y., Tanaka, S. & Nakaya, K. (2009) Okamejei kenojei. The IUCN Red List of Threatened Species 2009: e.T161645A5471805. (https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2009-2.RLTS.T161645A5471805.en.)

環境省海洋生物レッドリスト2017(魚類)(https://www.env.go.jp/press/files/jp/106403.pdf)

木村 清志, 瀬能 宏, 山口 敦子, 鈴木 寿之, 重田 利拓(2018)海産魚類レッドリストとその課題.魚類学雑誌 65(1): 97–116.

山口敦子(解説)(2017)グラバー図譜:ガンギエイ.長崎大学広報誌 Choho[チョーホー]58: 19-20. (http://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/about/info/publicity/file/c058-7.pdf)