漁業で得られる生物情報:ふぐ延縄漁で獲られる魚たち(ドチザメ科)

2021年1月7日 ALL調査・観察方法

日本沿岸では、さまざまな種類の漁業によって天然の魚介類が獲られ、それが私たちの食卓に上ります。今回は、瀬戸内海の西部、山口県周防灘の漁場で行うふぐ延縄(はえなわ)漁に同行して、漁獲された魚類の画像を撮影させていただいきました。その体験レポートです。

ふぐ延縄漁

1本の幹縄に多数の枝針を付けた延縄(はえなわ)という仕掛けを海底に這わせて、フグの仲間を専門に狙うのがふぐ延縄漁です。今回同行した漁師さんの場合、10メートル間隔で1000本以上の枝針を流して、魚を釣り上げます。目当てのフグだけをより分け、食用とならない魚は針から外して海へ返します。この作業を延々と4時間以上続けていきます。

ふぐ延縄漁で獲られる魚たち

2回の漁に同行して漁獲された海洋生物を写真に撮って記録しました。その結果を整理するとなんと計15種、253個体の魚類が見つかりました!その中でフグ類が最も多く、魚類全体の65.2%を占めていました。また、フグ類以外にも11種の魚類が獲れました。特に多かった魚類について紹介したいと思います。

ふぐ延縄漁

ふぐ延縄漁で獲られたシロサバフグ(Lagocephalus spadiceus

ドチザメ科

フグ類以外に最も多かったのがドチザメ科に属するサメの仲間で、計4種で魚類全体の17.0%を占めていました。瀬戸内海にサメがたくさん住んでいるイメージはありませんでしたので、これだけ多くのサメが獲れるとは驚きました。これらはとてもよく似ていますが、体の模様や鰭の形、歯の形状から識別しました。これらのサメ類は地域によっては食用として利用されているそうですが、この延縄漁ではすべて針から外して生きたまま海へ返しています。

ドチザメ(Triakis scyllium

体側に暗色の縞模様があり、ほかの3種とは識別できます。この個体は全長1.5mほどもあり、獲れたサメ類の中では最も大きな個体でした。

ホシザメ(Mustelus manazo)・シロザメ(Mustelus griseus

これらホシザメ属2種は、体形がドチザメとよく似ていますが、体側面に暗色の縞模様がなく、ドチザメより白っぽいことで識別することができます。また、ホシザメには背中に名前の由来となる斑点(ホシ)を持つのが特徴です。

エイラクブカ(Hemitriakis japanica

体形や体色はシロザメによく似ていますが、歯の特徴から識別することができます。エイラクブカは尖った歯を持ちますが、ほかのドチザメ科3種の歯は丸みを帯びています。漁師さんから「見た目は同じだが、歯を持たないサメと持つサメがいる」という話を聴いて、その特徴をもとに調べた結果、エイラクブカであることがわかりました。今回の漁では、サメ類で最も漁獲数が多かったのが、このエイラクブカでした。

エイラクブカは、国内では東シナ海や太平洋、日本海などの外洋に分布することが知られていますが、瀬戸内海での正式な報告は少ないようです。瀬戸内海では1997年に初めてその存在が確認されていますが、その後、シロザメとして漁獲された中に多くのエイラクブカが混じっていることが示唆されています。

シロザメ・ホシザメ・エイラクブカの3種は、環境省の海洋生物レッドリストにおいて準絶滅危惧(NT)として評価されており、生息状況を注意深く見守る必要があるとされています。しかし、これらは成長や寿命、繁殖などについての生態情報のみならず、その分布についても詳しくは理解されていないようです。

シロザメとエイラクブカの歯の形状の比較

漁獲データ×バイオームの利用

環境省のレッドリスト2020には、国内の陸上あるいは陸水に生息する計5,748種(準絶滅危惧・情報不足を含む)の動植物が掲載されており、その生息状況が評価されています。一方、環境省が2019年に公表した海洋生物レッドリストの掲載種は計443種で、魚類はわずか217種のみです。海洋生物は観察できる対象が少ないことから、陸上あるいは陸水域に生息する生物と比べると情報が乏しく、希少性を評価するのが極めて難しいのが課題だと言われています。

海洋生物の中で、重要漁業対象種58種については、水産庁が資源量の推移から絶滅リスクの評価が行われています。しかし、その元となる水産統計データは水揚げされた港ごとに収集されるのが一般的です。よって、沖合での魚類の正確な分布情報はほとんどありません。また、集計されるのは水産対象として価値の高い種に限られており、サメ類などは含まれていません。

今回、ふぐ延縄漁に同行して計15種の魚類の分布情報を収集することができました。得られた画像データはバイオームのデータベースで活用させていただく予定です。こうした漁獲データを適切に収集し、水産資源の適切な管理と海洋生物の多様性の保全に役立てることが重要だと考えられます。

 

【参考文献】

加村 聡, 橋本 博明, 具島 健二 (2000) 瀬戸内海におけるエイラクブカHemitriakis japonica (Muller et Henle)の二度目の出現例と出現傾向及び食性. 生物生産学研究 39: 1-7.

木村 清志, 瀬能 宏, 山口 敦子, 鈴木 寿之, 重田 利拓(2018)海産魚類レッドリストとその課題.魚類学雑誌 65(1): 97–116.

環境省海洋生物レッドリスト2017(魚類)(https://www.env.go.jp/press/files/jp/106403.pdf)

環境省レッドリスト2020掲載種数表(http://www.env.go.jp/press/113666.pdf)