漁業で得られる生物情報:ふぐ延縄漁で獲られる海洋生物(ヒトデ類)

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漁業で得られる生物情報:ふぐ延縄漁で獲られる海洋生物(ヒトデ類)

2021-06-23T14:42:23+09:00 2021年6月23日|Categories: ALL 環境 生物|Tags: , |

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過去2回に渡って、瀬戸内海西部周防灘(すおうなだ)のふぐ延縄(はえなわ)漁に同行した内容を紹介いたしました。1回目はサメ類、2回目はエイ類に関する内容でしたが、今回は魚類を離れて、ヒトデ類に関する内容を紹介いたします。

ふぐ延縄漁の様子は以下の動画をご覧ください。

ヒトデ類(海星綱)

棘皮動物門ヒトデ綱に属する動物の総称で、多くは5本の腕を持ちます。5本の腕が人の手の指に見えることからヒトデ(人手)と呼ばれています。海底でじっとしているイメージですが、これらの腕を使って海底を這って移動します。肉食性あるいは腐食性で、海底に棲む魚類、甲殻類、貝類、ゴカイ類などさまざまな動物を摂食します。

過去5回のふぐ延縄漁に同行して得られた海洋生物は1,000個体以上になりました。それらを分類群ごとに集計したのが下の図です。軟骨魚類と硬骨魚類を合わせた魚類よりも多かったのが、ヒトデ類で全体の55%以上を占めていました。

捕獲時に腕が千切れてしまう個体もありましたが、ヒトデ類は1本の腕から新個体が再生することもあるそうです。なお、漁獲されたヒトデ類は画像を撮影後にすべて海へ返しています。

瀬戸内海周防灘のふぐ延縄漁で漁獲された海洋生物

 

ふぐ延縄漁で獲られるヒトデ類

スナヒトデ(Luidia quinaria

北海道から九州まで、日本各地の沿岸の砂泥地に分布するスナヒトデ科の一種。5回すべての漁で捕獲され、捕獲されたヒトデ類の96%を占めていました。10cmほどの、もろくて細長い腕を持ちます。

モミジガイ(Astropecten scoparius

北海道から九州まで、日本各地の沿岸の砂泥地に分布するモミジガイ科の一種。腕の長さは6cmほどで、モミジの葉のような体形をしています。茶褐色のものや灰青色のものなど色彩には個体差があります。

モミジガイと形態がよく似た近縁種にトゲモミジガイ(Astropecten polyacanthus)とニセモミジガイ(Ctenopleura fisheri)がいます。トゲモミジガイは腕の縁の刺がさらに大きく、ニセモミジガイはさらに大きく腕の長さが15cmを超えます。これらの種の正確な同定には、体表面の刺やイボの形状を詳しく観察する必要があります。

マヒトデ(Asterias amurensis

北海道から九州までの沿岸に分布しますが、冷温を好むため瀬戸内海では少ないようです。腕の長さが12cmを超え、これら3種のヒトデ類では最も大きな種類です。体色は写真の個体のように青紫色と黄色が混じるものが多いようですが、赤紫色や一様に黄色のものなど変異があります。漁業上有用な二枚貝類を捕食するため、地域によっては駆除されています。

ヒトデ類の捕食行動

ヒトデ類は、海水中で獲物の存在を嗅覚で感じて、獲物を探します。北海道沿岸部では、主要な水産物であるホタテガイが、ヒトデ類の捕食によって深刻な被害が出ています。北海道のホタテガイ漁場において、マヒトデに超音波発信器を付けて海底での移動能力を調べた結果によると、水温が高い春から夏にかけては、平均17.5 m/h(最大45.9 m/h)の速度で移動したそうです(Miyoshi et al. 2018)。この結果から、北海道のホタテガイの資源を守るためには、漁場よりも広い海域でヒトデ類の駆除を実施することが有効だと考えられています。より温暖な瀬戸内海では、ヒトデ類が想像以上の速度で海底を這いまわって獲物を探しているのかもしれません。

ヒトデ類による漁業被害と沿岸生態系における役割

ふぐ延縄漁では、魚やイカの切り身を餌にフグ類を釣り上げます。フグ類より先にヒトデ類に餌を食べられてしまっては、目当てのフグ類を獲ることができません。瀬戸内海では、ヒトデ類による漁業への直接の被害はないものの、間接的に漁業へ影響を与えているとも考えられます。

一方で、高次捕食者であり、バイオマス(生物量)の多いヒトデ類は、沿岸生態系で重要な役割を担っていることも指摘されています。海外の研究では、ヒトデ類を駆除したことで、ヒトデ類の餌となっていた肉食性の巻貝類が増加し、結果として、その地域の生物多様性が低下したという事例が報告されています(Pain 1966)。

また、モミジガイ科のヒトデ類などは細菌由来の毒素であるテトロドトキシンを取り込み、体内に蓄積します(荒川 2017)。フグ類は、ヒトデ類などを捕食することでテトロドトキシンを体内に取り入れていると考えられています。このようにフグ毒にはヒトデ類を介した生物濃縮の仕組みが必要だと考えられます。よって、一概にヒトデ類がフグ漁の悪者とは言えません。

近年の海水温の上昇は、ヒトデ類の分布や活動様式に影響を与え、さらには漁業被害の増加や沿岸生態系への影響も生じることも懸念されます。しかし、国内におけるヒトデ類の生態に関する情報は乏しいのが現状です。今後、漁業で混獲されたヒトデ類の分布情報が漁業被害の軽減や海洋生態系の保全管理に活用できるかもしれません。

 

【参考文献】

荒川 修. 2017. フグの毒テトロドトキシン—保有生物やフグ食文化との興味深い関わり合い—. 化学と教育 65: 224-227.

Miyoshi, K., Y. Kuwahara, K. Miyashita. 2018. Tracking the Northern Pacific sea star Asterias amurensis with acoustic transmitters in the scallop mariculture field of Hokkaido, Japan. Fisheries Science 84: 349-355.

奥村 喬司(編著). 1994. 海辺の生きもの(山渓フィールドブックス8). 山と渓谷社.

Pain, R. T. 1966. Food web complexity and species diversity. American Naturalist 100: 65-75.

立川 浩之. 2016.ヒトデ・ウニ・ナマコを観察しよう(海の生きもの観察ノート13). 千葉県立中央博物館分館海の博物館(http://www2.chiba-muse.or.jp/www/UMIHAKU/contents/1521849666827/simple/No13.pdf)